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【改稿版】十一の獣は魔王と共に  作者: 九重楓
2章 初陣

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07

 月影の道標(ルーナ・ゲオグラピカ)が先導し、その後を咲和が付いて行く。未だに橋の上。対岸は一向に見えてこない。


【なぁ、嬢ちゃんがキングゥなんだろう?】


 先導しながら月影の道標は問う。その声はやはり少年の物だ。


「………一応」


 彼女の一歩後ろを歩き、俯きがちに答える。


【一応ってなんだよ。我らが王がそんなじゃ、お先真っ暗だな、ハハハッ】

「………ごめんなさい」



 咲和には月影の道標のことがよくわかっていない。自分が召喚した獣だということは間違いないようだけど、それ以上のことは一切不明だ。クサリクに教えてもらった魔術陣と詠唱で召喚できたのだから、信用できる相手なのも間違いない。しかし、先ほどの野太い男の声が咲和の心を揺らがせている。



【ジョークだ、悪かったな。ところで、この姿は嫌いか?】

「………え?」


 それは考えてもいなかった問いかけだった。嫌いかどうか聞かれても、咲和には正直なところわからない。同年代の少年のような姿にいい思い出がないのは確かだが、それももう数百年も前の話だ。何より、もうその頃の記憶も朧気なのだ。覚えているのは、どこかの誰かへ対する、深い恐怖とそれすら超える憎悪、どこかの彼女(だれか)へ対する深い愛情に似た感謝だけだった。



【いやなに、男が嫌いなのかと思ってな? 湖に浮かぶ城(アルキス・メモリア)の嬢ちゃんたちにはそう言うのが多いからな。まぁ、男と言うより人間がって感じもするがな】


 そんなこと知らなかった。皆が男性を嫌っているように見えなかったのだ。確かに城内には男性は一人もいない。しかしそれは、単にいないだけで、嫌いだからだとは思わなかった。


「皆、男の人が嫌いなんですか?」


 咲和が聞くと、月影の道標は足を止めて振り返る。



【お、乗って来たな。まぁ、そうだな。あくまでも俺の見てる感じはだけどな。だってよ、嬢ちゃんたちは女同士でやることやってるだろ? 偏見でわりぃが、男が嫌いでもなけりゃあ、そんなことしねぇだろ。少なくとも俺はそうだぜ? 「ウェールス・ムンドゥス」から男の一人や二人攫ってこればいいだけだしな。嬢ちゃんもそうは思わねぇか?】

「やる、こ、と…………………………………………………………や、やややや、や―――」


 咲和の頭の中では、桃色の妄想が次から次へと現れては泡のように膨らんでいく。


 ムシュマッヘとウシュムガルが……。ラフムとラハムが……。ムシュマッヘとウガルルムが……。ラハムとウガルルムが……。もしかしたら、三人でも………。四人でとか………。


【ちょ、嬢ちゃん? 大丈夫か?】

「や、ややや――――――――――」


 遂に頭の中が桃色の妄想で埋め尽くされた咲和は、顔を耳まで真っ赤にして後ろにばったりと倒れた。


【嬢ちゃん? 嬢ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああん】





「もう、大丈夫です………ごめんなさい」

【いや、俺も悪かった。もうあの手の話はよしとくぜ】


 数分が経ってようやく目覚めた咲和に、申し訳なさ全開の月影の道標が言った。


【まぁ、とりあえず、人間どもの元へ行こうぜ】

「はい、そうしましょう……」


 二人は立ち上がり、今度は横に並んで歩みを進めた。

 未だ二人は橋の上。人間たちとの邂逅に至っていない。

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