06
【残念ながら、お嬢ちゃんの目の前のが俺だ】
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!」
最悪の予想が的中してしまった為に咲和は壊れた。喚きながら衝怒の絲剣を振り回す。それは目の前の生き物の息の根を止めかねない勢い。
【お、おい! 嬢ちゃん、やめろ。そんなものが当たったら流石に死んじまう!】
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!」
尚をも振り回し続ける咲和。
【しゃーねぇ―――――――――――――――――――――――好きじゃねぇんだがな】
「―――――?」
振り回されていた衝怒の絲剣がその動きを止めた。
【これでいいか?】
口調こそ変わっていないが、野太い男の声から幼い少年の声に変わっていた。そして目の前にいたはずのふわふわの白い毛玉はいなくなっていた。その代わりに、声の主と思われる、燕尾服にハットという出で立ちの幼い――咲和と同じくらいの背丈の――金髪の少年が衝怒の絲剣を片手で受け止めた状態で立っていた。
「………………誰?」
【月影の道標だ。嬢ちゃんが呼んだんだろう? なのに話しかけた途端に暴れだしやがって、衝怒の絲剣なんかで斬られれば、流石の俺でも死んじまう】
「貴方が………さっきの?」
事態の呑み込みがうまくできない咲和はオウム返しに聞いた。
【そうだ。俺が嬢ちゃんの呼んだ月影の道標。呼び名はどんなんでも構わねぇ。それと、一応言っておくが、俺は雌だ。雄じゃねぇ】
「…………女の人?」
【人じゃあねぇが……まあ、そういうこった。よろしくな、嬢ちゃん】
そう言って、月影の道標は衝怒の絲剣を放し、咲和に握手を求めてきた。それに咲和はわけもわからず応じた。すると、彼女はニカッと笑って、咲和の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
「…………は、い?」




