06
「「母様!」」
ラフムとラハムは母の凶行を目の当たりして声を上げた。
「お止め下さい! 彼女はもう死んでおります!」
「お止め下さい! あんな者の為に力を使いすぎです!」
大粒の涙を流しながら、その貌に憤怒を張り付けたティアマトには二人の娘の声は届かない。
何度も指を鳴らし、その度にムンムを目覚めさせては殺す。
そんな凶行を娘たちが許すはずもない。無駄に力を使い、愛しき妹の願いを無下にする行為を、二人の姉が許すはずがないのだ。
パンッ。
と、頬を叩かれた。
ラフムがティアマトの頬を叩いたのだ。叩かれた本人であるティアマトとラハムは唖然とする。しかしすぐにティアマトはラフムへと視線を戻し、口を開いた。
「何をす――――」
ラフムの目を見たティアマトの言葉と動きが止まった。
「お止め下さい……。このような行為をサナは望みませんわ」
ボロボロと涙を流しながら、不器用に笑うラフム。その手には普段は顔に巻かれている赤色の帯があった。
初めて見る半身の表情にラハムの表情も次第に崩れていく。ボロボロと涙を流した。
二人の娘は大粒の涙を流しながら母へと抱き着いた。それは母の凶行を止める為であり、それは愛しい妹を失った悲しみに因るもの。
ティアマトは指を鳴らした。その音と共にムンムへと繋がっていた白銀の糸は断たれた。
遠くからその様子を見つめていたノウェムがパタパタと駆け寄ってくる。彼女もまたその美貌を涙と鼻水でぐちゃぐちゃに崩していた。
駆け寄ってきたノウェムと、二人の娘を原初の母は抱きしめる。
「すまなかった………。帰ろう、湖に浮かぶ城に」
こうして、転生者は救世を為した。
叡智の霧の思惑は砕かれ、原初の母は帰還した。
しかし、愛しき者を失った者の心には黒く深い影が残った。
法国を覆ったカーネーションが、母を思う娘の気持ちを乗せて、静かに風に揺れていた。




