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「コレは一人の女の物語」
独白のような詠唱は開始された。
「虐げられ、尊厳すら踏みにじられた一人の女」
遠い過去、元の世界での話。
魔術陣がその端から姿を変えていく。
「苦痛に塗れた生の中にあって、温かさをくれた唯一」
今でも忘れることの出来ない愛しい人。
「新たな家族を得、喜びと愛しさを知った」
転生した後の「トラウェル・モリス」での話。
「愛おしく、尊き家族たちとの日々。そんな尊き者たちと決別し、私は独り、世界を救う」
世界を砕く為にゆっくりと巨星は降りてくる。
瞼を降ろす。
脳裏には「トラウェル・モリス」での日々が流れて行く。
「今ここに、転生者は己が願いを享受する!」
何もない星の海でのナンムとの時間が流れて行く。
魔術陣の変化が止まる。その姿は一輪の巨大な花だ。
咲和の躰にも変化が訪れた。「アリシア王国」での意識の喪失を見れば当然の結果だった。しかし、咲和自身はそんな変化など些細なことだと言わんばかりに、最後の一節を詠みあげる。
「世界は愛しい人と共に進んで行く、それが私の唯一の願い!」
咲和が巨星に突き出した手を握り締めた。するとそれと連動するように、巨大な花はその花弁で巨星を閉じ込めたのだ。
花は閉じ、蕾へと返った。
「―――――――」




