03
「世界降す決別の時――――」
詠う。それは憎悪の宿る聲。
宣戦布告の際に、玉座の間で詠われた詩。
振るう腕は澄み渡る青空に魔術陣を描いていく。そこには教皇の纏う魔力が籠められる。
「―――砕かれるは新世界。顕現せしは愛しき彼の時。新しき秩序など、脆く、砕けるが定め。我らが理を世界に敷く―――」
詠う。それは狂気の籠る聲。
空を見上げ、咲和は動けないでいた。圧倒的な魔力量の差、消え失せた神殿と勇者の謎が咲和を絶望に突き落としたのだ。
心を白銀の絶望で塗り潰された。
そして、詠い始める。
「温もりは潰え、日常は崩終する。世界は立ち還り、人々は信仰を捨てた――――」
「―――私の全ては大いなる父の為に―――」
詠う。それは世界貶める聲。
「―――我が心は母の為に、我が血潮は家族の為に、我が身体は彼の者を屠る為に。―――」
空を見上げ、虚ろの瞳で詠う。
「――――転生者は解き放たれ、人々は彼の時を思い出す――――」
詠う。虚ろの瞳から滴が一筋。
「――――故に、世界降す我に愛などいらぬ」
「――――狂喜せよ、今、原初は目覚める」
二人の詠唱は同時に完了した。
澄み渡る青空を背景に、巨大な魔術陣は白銀の絶望を湛える。
天が割け、一筋の蒼黒の光が咲和の躰に降り注いだ。
「ムンム……貴様だけは許さぬ」
咲和の声の咲和ではない言葉。
明らかな憎悪を以てサナは教皇を見据えた。




