02
「ココは、元の世界とは違うんだもんね。違って当たり前か―――――」
一階まで下りてきたが、踵を返し階段を駆け上がった。
瞬く間に屋上まで戻り、魔術陣を描く。
「私の世界の威光を見よ! 砕かれ、滅び、己が脆弱さを悔いるがいい。勇者の首を断たれ、「十一の獣」の栄光を約束された。凱旋の時は近い!原初謳いし世界砕きの獣兵!」
今まで幾度となく発動した咲和の為の咲和だけの魔術。
魔力を伴って羽ばたく。天高く舞い上がり、眼下には美しい「リシュヌ法国」の街並みがある。そこには確かに人々の営みがある。それを砕くことなど誰にも許してはならないのだ。そう、誰もが誰かの生活を砕くことなど許されない。
だから、咲和自身も許されるべきではないのだ。
「そんなことわかってた………だから、私は償わなければならない。たとえ、それが許されることがなくとも」
膨大な量の魔力を纏い、「エ・テメン・アン・キ」へと落下する。それは大地穿つ流星が如く。
音さえ超えるその速度は「リシュヌ法国」全土へと及ぶ衝撃を生み出した。
咲和は真っ直ぐに「エ・テメン・アン・キ」を見据える。そして、遂に衝突した。
屋上から鮮やかな神殿が崩れていく。大量の土煙と瓦礫を巻き上げて咲和は突き進む。
「やっぱり………月がありませんでしたからね」
そう言って咲和が降り立ったのは、一階ではない。
床には銀色の円が爛々と輝いている。
どの階よりも遥かに広いそこは、地下一階。
何を隠そう、玉座である。




