03
「ごめん、ごめんね……お前たちに辛い思いをさせて、こんなお姉ちゃんでごめんね……」
普段は見せない涙があった。
ウガルルムは二人の妹を思って涙を流す。
あの魔術が何を齎すのかを知っているからだ。
でもそれは仕方のない事だった。何故なら、妹たちが自分の大好きな人の為に頑張ると言うのだから。それを無下にできる姉などいるはずがない。
「だから、あたしも!」
大きく息を吸い、ウガルルムは跳ねた。一足飛びで砕かれた橋を飛び越え対岸へ。
「行くぞ! オラァ!」
周りの魔物が瞬間動きを止めた。
「一匹たりとも残さず滅ぼす! それが、サナ様と可愛い妹たちに対する贖罪だ!」
ウガルルムは咆哮すると周りにいた魔物たちをなぎ倒していく。
頭を砕き、胸を貫き、腹を割いて、躰を穿つ。
湖と空の魔物を根絶やしにする妹たちが居る一方で、その姉は橋の上の魔物たちを悉く滅ぼす。
「全く姉妹たちは身勝手で叶わん!」
半ば暴走気味のウガルルムを見つめ、呆れるように吐き捨てた。
「仕方ないですよ。ウガルルム姉さまは特にウリ姉さまとウム姉さまを大切にしていましたから」
ムシュフシュがイシュの隣に立ってその表情を歪めて言う。
「そんなこと余も分かっておる。分かっておるからこそ……。いや、今は目の前に集中するとしよう」
ムシュフシュに向けていた視線を魔獣たちに向けなおし、地を蹴った。
「そう言うところだよ、イシュ……」
握り締めた拳の意味を、ムシュフシュはきっと誰に打ち明けることもないだろう。




