01
咲和が召喚され、魔術訓練と戦闘訓練に明け暮れている日々から、数百年の時が経った。
それは人の身にはあまりにも長い時間だ。その永劫とも思える時間を生きることはかなわない。そう、人の身なら。
しかし、咲和は人間ではなく至上の人形の体であり、十一の獣は文字通りの獣であり、ラフムとラハムは神話の体現者であり人間とは異なる人外である。つまり、数百年経とうが、城での咲和の暮らしに目新しい変化は起きなかった。
何より、咲和自身が時間経過を気にしていなかったことが大きかった。常夜の世界である「フィクティ・ムンドゥス」は常に月が上り、太陽が上がることがない。
その為、陽光と月影の移り変わりによる日付の変化には、気が付くことができない。
「フィクティ・ムンドゥス」での一日は、その者が起き、その者が寝るまでの時間なのだ。よって、時には数十時間の戦闘訓練を行っていたり、数百時間かけての魔術訓練を行っていた咲和にとって、日付の変化など既に気にするに値しなかった。
「サナ様、お食事の準備が整いました」
低めのアルトボイスが扉越しに咲和に呼びかける。
「はい、わかりました」
すぐに返事をして、開いていた魔術書を閉じる。
部屋を出るとムシュマッヘが手を前で揃えて待っていた。
「お待たせしました。行きましょうか」
「はい」
ムシュマッヘは短く返事をして、咲和の後ろに付いた。




