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遡って、咲和たちが「ウェールス・ムンドゥス」へと向かったすぐの湖に浮かぶ城。
「前線での戦闘は、余、ネガル――元ナンナイ・クルウ帝国近衛騎士――、フォルウィトゥス、十一の獣で請け負う。それ以外の者は巻き込まれぬよう、魔術での最低限の支援を任せた」
人間の娘たちは力強く頷いた。
イシュに名前を呼ばれた、フォルウィトゥス・ウィースは蒼黒の髪の女性騎士だ。帝国陥落時にウガルルムが攫ってきた者だ。
攫われた女性たちの中でも最も戦闘経験が豊富で、その技量はイシュやネガルには及ばないものの、一介の騎士にしておくには勿体ないものだった。その為、ネガルが個人的に訓練をつけていた。
今では純粋な戦闘能力で言えば単一で魔獣と渡り合うが出来るほどに仕上がっている。
ネガルが右手首に巻かれた、模様の彫られた翡翠のブレスレットを撫でる。
「望むは、境界を断ち世界屠る、絶対の刃。機械仕掛けの獣」
模様には赤黒い光が灯り、ネガルの両手には、柄部分に拳銃の機構持つ刀。その銃身は刀身の背に沿う様に伸びていた。相手を刺せば、そのまま銃身が体内に入り込む形になる。
「クサリクの結界は解かれている。すぐに敵は城門にいたるだろう。行くぞ、十一の獣! 湖に浮かぶ城を護る為、奮起するのだ!」
ウガルルムは言葉と共に開門した。
言葉通り、霧の立ち込めるその先には無数の影が見えた。
二足、四足、翼のある物、見上げるほど巨大な者。実に様々な姿形だ。
「ウリ、ウムは二人で行動! ムシュフシュはワタシの援護と殺り零しの処理! ギルタブリルは人間たちに注意が集中しない様に立ち回ってくれ!」
ウガルルムは吠えるように姉妹たちに指示を飛ばした。それに全員が頷く。
ウリとウムの二人は手を繋ぎ、城の壁を駆け上っていった。空より飛来する敵を迎撃するつもりなのだろう。
ムシュフシュはウガルルムの隣に立ち、魔術陣の描かれた小さな宝石を両手いっぱいに握っている。
ギルタブリルは腰に巻いた尾を解いて、いつでもスキル「天命の番」を発動できるように気を張った。
十一の獣たちに続いて人間たちも城の外へと飛び出した。




