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姿を見せることなくインフェデレスは続けた。
「「|ウェールス・ムンドゥス《こちら側》」の者からすれば貴女たちは皆一様に化け物なんです! 交流持つことも手を取り合うことさえ出来ない! 相容れることなどありはしない! だって、我々を脅かす化け物なのだから!」
イヒャヒャヒャと笑いを続けた。
未だインフェデレスは姿を見せず、嫌な笑いだけが響き渡る。それは地面に伏している二人の召喚獣にも届いている。
誰が耳にしてもそれは「フィクティ・ムンドゥス」に住む者への侮辱と侮蔑に他ならない。そして
「ウェールス・ムンドゥス」に住む者の根底にある感情でもある。
エンリルが信頼した人類に根付く獣に対する拭い去ることの出来ない深い憎しみだ。
「言いたいことはそれだけですか?」
俯き、ポツリと零した。
「はい?」
インフェデレスは笑いを止めた。
「いえ、言い方を変えましょう―――――言い残すことはそれだけですか?」
クサリクは躰に魔力を纏う。
「我が躰は雷、我が囁きは毒。我が思いは天を裂き、我が言葉は大地を穿つ。そう、我が師は原初。そう、我が母は原初。そう、我が愛は母へと捧ぐ」
祝詞は紡がれる。しかし魔術陣は現れない。
「魔術? しかし貴女の魔術ではココを全て壊してしまいますよぉぉぉおおおお? それは貴女方の王が望むところではないでしょう?」
その声に焦りはない。姿を消したまま彼は嘲りを止めない。
「世界がそれを許さなくとも、世界がそれを否定しようとも―――」
祝詞は止まず、遂に魔術陣は現れた。
まさしく現れたと言う表現が正しい。突如として現れたのだ。描く素振りなど一切なかった。それはまるで判を捺したかのようにクサリクの足元に広がった。
魔術陣からは当方もない魔力の奔流。その中に立つクサリクは涙を流し、額には青筋を浮かべ、美しかった翡翠色の瞳は赤黒く濁っていた。
クサリクは明らかに思考の全てを怒りに呑まれている。
しかし、その明らかな怒気は言葉には現れていない。あくまでも表情にだけ現れている。この祝詞に怒気を含ませるわけにはいかないと言わんばかりに、声色だけは普段の穏やかな調子だ。そのせいか、姿の見えないインフェデレスはクサリクの憤怒とも呼べる怒りに気が付いていない。
地面に捺された魔術陣は瞬きも許さぬ間に大空へと移動する。
そして、その上からはクサリクが地上を睥睨していた。
「ええ。私の愛らしい王は人を傷つけることを望まない。あの方はお優しい。生きる価値のない塵蟲どもを生かせと言う………。だと言うのに、そんなあの方をお前は化け物と呼んだ」
その声色にも怒気は含まれない。ただその表情だけに怒りを表す。




