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「残るは貴方だけですね。ずっと見ているだけでしたが、監視が目的でして?」
召喚した二人の戦いを見届けたクサリクは、自らの死角に居座るもう一人の獣へと声を掛けた。
「監視? そんなはずないじゃないですかぁ。ただですねぇ、私はただ母様に言われたからここにいるだけなんですよ。母様は貴女たちを殺せとは命令しませんでしたからね」
燕尾服にハットの獣―インフェデレス―は目の前で金焔に消えて逝った兄たちのことなどどうとも思っていない様に、嘲笑交じりに言ってのけた。
「それでもやることはやらないと、私が母様に殺されてしまいます。それは流石に嫌ですねぇ」
「じゃあ、私の相手でもしてくれますか?」
振り向き、その双眸にインフェデレスのニヤケ面を映して言った。
「私が貴女のような魔術の化け物に敵うはずないじゃないですかぁ。やだなぁ、ご自分のことを過小評価しないでもらえますかぁあ? 言ったじゃないですか、私は死にたくないんですよぉ」
イヒャヒャヒャ、と嫌な笑いを続けた。
「だからと言って、私が貴方を逃がすとでも?」
指を鳴らす。それとほぼ同時にインフェデレスは横へと跳ねた。彼のいた場所では天高く炎柱が燃え盛っている。
「できれば見逃してほしいですね」
「それは無理な相談ですね」
再び指を鳴らす。しかしそれもインフェデレスは跳ねて避けた。彼のいた場所にでは凍てつく冷気を放つ氷柱が聳えている。
「まぁあ、わかっていましたけどねぇ」
インフェデレスはクサリクの視界から姿を消した。
「解らないなんて言わないですよねぇ? だって貴女は魔術の化け物なんですからぁあ。彼の大いなる母をも凌ぐ魔術の才が見逃すはずがないですからぁあ」
「ええ、貴方のいる場所など把握していますよ。ただそれは魔術の才などなくても可能です。姉妹たちなら誰でも可能ですよ」
嘲りさえ含めてクサリクは虚空に投げかけた。
「ええ、ええ、そうでしょうとも。そうでしょうとも! なんせ貴女たち姉妹は―――いえ、貴女たち「フィクティ・ムンドゥス」の者たちは皆が一様に化け物、なのですからねぇえ」




