06
ウシュムガルは魔力を伴った羽ばたきで地上を離れる。真砕く虚妄の獣がそれを追う。その様子にムシュマッヘは小さく息を吐いた。
「仕方がないか………ワタシも手伝おう」
天高く舞い上がったウシュムガルに少し遅れて、真砕く虚妄の獣が追い付いた。
真砕く虚妄の獣が、三対の腕で魔術陣を描きながら天を駆ける。
「0t@7ef@,f@yd964xh」
聲と共に描かれた六つの魔術陣から身の丈を超える斧が出現した。
六本の巨斧を掴み、そのまま振りかぶる。
その様子を無視するかのように、ウシュムガルは地上の二人の獣に殺意を注ぎ続ける。
「hq@:9」
巨斧は振り下ろされた。
空気を震わす衝撃が走った。
真砕く虚妄の獣の一撃はウシュムガルの翼によって防がれたのだ。
「hq@:9hq@:9hq@:9hq@:9hq@:9hq@:9hq@:9hq@:9hq@:9」
たった一枚の翼さえ砕けないことに激昂する。何度も何度も巨斧をウシュムガルの翼に叩きつける。しかし翼には傷一つ付かない
遂に聲は咆哮となり意味さえ持たなくなった。
その時、ウシュムガルが動いた。
防ぐだけだった翼で巨斧の全てを弾かれ、真砕く虚妄の獣は無防備を晒す。その隙をつき、ウシュムガルは真砕く虚妄の獣の頭を掴んだ。頭はミシミシと音を立てて変形していく。
彼女は真砕く虚妄の獣を地面へと投げ飛ばす。当然、その先にはプセドテイとメンダキオルムがいる。しかし二人の獣は運よく真砕く虚妄の獣の落下地点から避けることが出来た。
邪魔者がいなくなった蒼天にてウシュムガルは、しなやかな尾を使って巨大な魔術陣を描く。
魔術陣を描き終わると、彼女はそれを尾で叩いた。すると魔術陣は目で追うことさえ困難な速度で地上へと移動した。そこは真砕く虚妄の獣の落下地点。その脇には二人の獣。
魔術陣は地上に移動した途端、その円周に天まで届く緋色の光の壁を作り出した。それはまるで、罪人を閉じ込める檻の様。
二人の獣はウシュムガルを見上げる。その貌には驚愕と恐怖が張り付いている。もう既に戦意の喪失が見て取れる。しかし、そんなもの彼女には関係ない。尊く愛しい姉を傷つけた。その罪に見合う罰を与えるだけだ。
真砕く虚妄の獣が二人の獣に遅れて彼女を見上げる。
聲を上げる。それは意味のない咆哮だ。
自らの攻撃が何一つ効かなかったことへの怒りと、恐怖を感じてただ咆哮するだけの自分に対する怒り。




