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神話の真実を知った後、咲和は次の行動に移っていた。それは元から考えていたものではなかった。真実を知った後に思いついたことだ。そして、何よりも彼女に欠けていたことでもあった。
「あ、あの………」
「はい、サナ様」
咲和は厨房にいる、クサリクの元へとやって来ていた。調理台の上には、何かの内臓や香草が山のように積まれており、何を作っているのか一見しただけでは理解できなかった。
咲和がクサリクの元へやって来たのは、ラフムとラハムの助言によるものだ。
「………わ、私に………魔術を……魔術を、教えてください………」
生前の咲和には、当然のように魔術の素養なんてものはなかった。と言うより元の世界では誰もが持っていないことこそが常識だった。一方で「トラウェル・モリス」では魔術は一般的だった。誰もが使えるわけではないが、それでも、日常生活を送っていれば目につくことが多い。それは時に家の中だったり、時に街中だったり、時に戦場だったり。実に様々だ。
自分を愛しいと言ってくれた人達の為にも、咲和はそんな日常を手にする必要があった。
「魔術、ですか?」
そんな咲和の決意とは裏腹にクサリクは素っ頓狂な顔をして、首を傾げる。然も、今更そんなことが必要なんですか? と言わんばかりだ。
「……あ、え、わ、私………変なこと、言いましたか?」
「あ、いえ! そんなことはございません。大変失礼いたしました!」
クサリクはすぐさま深々と首を垂れる。
「か、顔を、上げてください………」
「はい。申し訳ございません。して、何故魔術を?」
クサリクは顔を上げ、確認するように問う。
「あ、え、……えっと、皆さんは使えるようなので………私も使えるようになりたくて………」
「そうでしたか、かしこまりました。では、準備を致しますので、少々お部屋にてお待ちください。すぐに向かいますので」
「ありがとうございます」
クサリクは咲和を一人、自室へ帰して魔術の授業の準備を始めた。
咲和が部屋に戻って少し経ってから、クサリクが小さなバスケットを手に部屋へやって来た。
「大変お待たせ致しました。では、修練場にて訓練を始めましょう」
「よろしくお願いします」
二人は、咲和の召喚された地下ホールのさらに下、地下修練場に移動した。




