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【改稿版】十一の獣は魔王と共に  作者: 九重楓
1章 召喚

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13

 コンコンコン。


「あ、あの………」


 とある部屋の前に咲和はやって来ていた。


「「………あら、何かしら?」」


 中からラフムとラハムが出てくる。


「少し、聞きたいことがありまして………」

「「……そう。なら入って」」


 二人は咲和を部屋に招き入れた。

 中は咲和の部屋とは比べ物にならないほど簡素なものだった。

 大きなツインベッドとクローゼットがある以外に何もない。その上、壁も床も天井も、石造りが剥き出しだった。廃墟のような冷たさが部屋を満たしている。


「「聞きたいこととは何?」」


 二人はベッドに腰掛けて問う。


「あ、え………創世神話を読んだんです。それで――――」

「「我々はそれに立ち会ったのではないか?」」


 咲和の声を遮る様に二人は続けた。心を読んだかのような二人の言葉に、彼女は言葉を詰まらせた。


「「サナ、貴女の推測は概ね正しいわ。我々は神話の体現であり、神話は我々の忌まわしき過去よ。そして貴女は、その神話に終わりを(もたら)すために召喚された」」


 神話の終わりこそが我々、母様に生み出された者たちの悲願なのだから



 二人の言葉には、憎悪と悲愴と、幾ばくかの憐みが含まれていた。


「じゃ、じゃあ………私は、いつか、誰かを殺す(、、、、、)んですか?」


 咲和の台詞に二人は意表を突かれたとばかりに、小さく口を開けた。そして、クスクスと笑う。


「「貴女、おかしなことを聞くのね。いつか誰かを殺す? 今更何を言っているの? 貴女が殺すのは、誰かなんて個人じゃないわ。貴女が殺すのは――――」」


 その続きを咲和は聞いたはずだった。

 何故ここに召喚されたのか。

 質問の答えはすでに出ていたのだ。

 二人は言っていたではないか。勇者に復讐がしたい、と。

 創世の勇者に対する復讐。それが意味するのは―――


「「――――世界よ」」


 絶句とはまさにこのことだろう。言葉など出るはずもなかった。どうしたら世界を殺すなどと考えることができるのだろうか。


「私にできると、思っているんですか?」


 思わず口に出た言葉だった。


「「ええ。貴女ならできるわ。だって、貴女は母様が唯一愛した子なのだから」」

(それだけのことで………母さんに愛されているってだけで………私が―――)


 ―――――世界を殺せると、そう信じて疑わない。


 それは一人の少女が背負うには余りにも重い期待だった。世界の命運を背負っているのだから当然だ。自分の行動一つで世界の明日が決まる。暮らしている者の尊厳や権利なんて無視して、自分の考えだけでそれを蹂躙し破壊する。それは決して許される行為ではない。


「「貴女は母様に愛された唯一無二の子。そして、私達の愛しい妹。貴女にならなんだってできる。そう信じている。だって、母様が愛し、私達が受け入れたのだから」」


 二人はベッドから腰を上げ、挟む様に咲和を抱きしめる。優しく、ぎゅっと。部屋の冷気から咲和を守るように。貴女ならできると、そう伝えるように。

 咲和はそれだけで(ほだ)される。


「はい………………………………姉さん」


 咲和の中で二人の存在は大きくなりつつあった。まだ出会ってから一ヶ月に満たない期間しか過ごしていない。それでも、この人たちの為なら何でもしてあげたいと、この人たちの為なら世界すら屠ってみせると、そう思うに足る存在になった。

 それは二人にとって同じことだった。咲和の為ならばなんだってしよう、世界すら一緒に屠ってみせる、と二人の中で彼女は大きな存在になっていた。


 その感情は、友愛であり、家族愛であり、姉妹愛であり―――――――――

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