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コンコンコン。
「あ、あの………」
とある部屋の前に咲和はやって来ていた。
「「………あら、何かしら?」」
中からラフムとラハムが出てくる。
「少し、聞きたいことがありまして………」
「「……そう。なら入って」」
二人は咲和を部屋に招き入れた。
中は咲和の部屋とは比べ物にならないほど簡素なものだった。
大きなツインベッドとクローゼットがある以外に何もない。その上、壁も床も天井も、石造りが剥き出しだった。廃墟のような冷たさが部屋を満たしている。
「「聞きたいこととは何?」」
二人はベッドに腰掛けて問う。
「あ、え………創世神話を読んだんです。それで――――」
「「我々はそれに立ち会ったのではないか?」」
咲和の声を遮る様に二人は続けた。心を読んだかのような二人の言葉に、彼女は言葉を詰まらせた。
「「サナ、貴女の推測は概ね正しいわ。我々は神話の体現であり、神話は我々の忌まわしき過去よ。そして貴女は、その神話に終わりを齎すために召喚された」」
神話の終わりこそが我々、母様に生み出された者たちの悲願なのだから
二人の言葉には、憎悪と悲愴と、幾ばくかの憐みが含まれていた。
「じゃ、じゃあ………私は、いつか、誰かを殺すんですか?」
咲和の台詞に二人は意表を突かれたとばかりに、小さく口を開けた。そして、クスクスと笑う。
「「貴女、おかしなことを聞くのね。いつか誰かを殺す? 今更何を言っているの? 貴女が殺すのは、誰かなんて個人じゃないわ。貴女が殺すのは――――」」
その続きを咲和は聞いたはずだった。
何故ここに召喚されたのか。
質問の答えはすでに出ていたのだ。
二人は言っていたではないか。勇者に復讐がしたい、と。
創世の勇者に対する復讐。それが意味するのは―――
「「――――世界よ」」
絶句とはまさにこのことだろう。言葉など出るはずもなかった。どうしたら世界を殺すなどと考えることができるのだろうか。
「私にできると、思っているんですか?」
思わず口に出た言葉だった。
「「ええ。貴女ならできるわ。だって、貴女は母様が唯一愛した子なのだから」」
(それだけのことで………母さんに愛されているってだけで………私が―――)
―――――世界を殺せると、そう信じて疑わない。
それは一人の少女が背負うには余りにも重い期待だった。世界の命運を背負っているのだから当然だ。自分の行動一つで世界の明日が決まる。暮らしている者の尊厳や権利なんて無視して、自分の考えだけでそれを蹂躙し破壊する。それは決して許される行為ではない。
「「貴女は母様に愛された唯一無二の子。そして、私達の愛しい妹。貴女にならなんだってできる。そう信じている。だって、母様が愛し、私達が受け入れたのだから」」
二人はベッドから腰を上げ、挟む様に咲和を抱きしめる。優しく、ぎゅっと。部屋の冷気から咲和を守るように。貴女ならできると、そう伝えるように。
咲和はそれだけで絆される。
「はい………………………………姉さん」
咲和の中で二人の存在は大きくなりつつあった。まだ出会ってから一ヶ月に満たない期間しか過ごしていない。それでも、この人たちの為なら何でもしてあげたいと、この人たちの為なら世界すら屠ってみせると、そう思うに足る存在になった。
それは二人にとって同じことだった。咲和の為ならばなんだってしよう、世界すら一緒に屠ってみせる、と二人の中で彼女は大きな存在になっていた。
その感情は、友愛であり、家族愛であり、姉妹愛であり―――――――――




