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ムシュマッヘによる言語授業は一日五時間行われた。マンツーマンの授業であり、他には誰もいない環境が咲和には心地よく、勉強は滞りなく進んだ。授業のほかにも寝る前や、朝食の前などに自習を続けていた。時々、ラフムとラハムに頼んで、魔術を解いて会話をしてみたりしていた。
その結果、一カ月に満たない日数で読み書きが問題なくできるようになった。何より、魔術なしで十一の獣たちと会話が可能になったのだ。彼女たちの優しい対応と会話が可能になったことが合わさり、生前からの話しかけられるだけで「謝る」と言う行為は減っていった。
そして、授業を始めるきっかけになった本を開いた。
書かれていたのは、「トラウェル・モリス」の創世神話だった。それは「エヌマ・エリシュ」に似ていた。
原初の父と母が存在しそこからさまざまな者たちが生まれ、その子供たちは原初に反旗を翻し、新たなる世界を創った。
創世神話にしては描写が事細やかだったり、会話が描写されていたりと、小説に近いものだった。
「…………?」
咲和が何よりも気になったのは、原初の母たる「ティアマト」についてだった。
白銀の髪を二つに結った少女のような母。と描写されていたその容姿は、玉座の後ろに掛けられていた肖像画に似ている。
(ティアマト、キングゥ、ラフムとラハム、十一の獣………創世)
頭の中には疑問ばかりが浮かんでくる。
次第にページを捲るスピードも上がっていく。しかし、最後のページまで捲ってみても、咲和の疑問が晴れることはなかった。
立ち上がり、部屋を出ていく。




