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二人の抱擁を受け入れて以来、咲和はやれることは総てやることにした。
まず咲和は、クサリクを呼び出して、ムシュマッヘへの言伝を頼んだ。それは今後の世話係の任命と召喚時の態度についての謝罪だった。
咲和にとって彼女も自分のことを案じてくれている一人なのだ。彼女と同じ一人だ。そんな人に辛い思いをさせたまま過ごすのは、とてもじゃないが咲和には無理だった。
(………怖かった。だけど…………今は)
もう、悲しませたくないから。
次いで、咲和は自室の本棚から何冊かを取り出して勉強机に運んだ。「トラウェル・モリス」の常識や風土、歴史などを頭に入れておこうと思ったのだ。
一冊を開く。どれもがアルファベットに似た文字で書かれ、その文章は英語に近い。しかし、度々、英語とは違う文章の並びや綴りの単語が出てくる。
(英語みたいだけど…………ちょっと違う?)
それも当然だ。ココは元居た世界とは違う異世界。言語が同じである方がおかしな話だろう。
そこで、ベルを鳴らした。
すぐにドアをノックされる。
「サナ様、ムシュマッヘが参りました」
パタパタとドアに駆け寄り、ムシュマッヘを部屋に招き入れる。
「どうぞ、何なりとお申し付けください」
彼女は躊躇なく傅いた。
「あ、え………コレを、教えてほしいんですが………」
先ほど開いた本をムシュマッヘに見せながら咲和は言う。それを彼女は立ち膝で覗き込んだ。
「「トラウェル・モリス」についての本でございますね。かしこまりました。具体的に、何をお教えすればよろしいでしょうか」
「え、あ、……読めなくて、言語の勉強をしたいです。魔術なしで、皆さんと話ができるようになりたいです……」
「かしこまりました。では、紙をお持ちしますので、少々お待ちくださいませ」
今一度傅き、ムシュマッヘは部屋を出ていく。
ベルを鳴らした時よりも少しだけ時間をかけて、ムシュマッヘは戻ってきた。その手には大量の紙を抱えている。
「お待たせいたしました。では、お勉強を始めましょう」
「よろしくお願いします」
こうして、ムシュマッヘによる「トラウェル・モリス」の言語授業が始まった。




