05
シュガルの部屋を後にした咲和が訪れたのは、十一の獣が九女、ムシュフシュの部屋だった。
ノックをしようと拳をドアに近づけた所で、徐にドアが開いた。
「これはサナ様、何か御用でしょうか?」
「あ、え、えっと……少し相談がありまして」
「相談、ですか。はい、かしこまりました。どうぞ、お入りください」
咲和を部屋へと通して、静かにドアは閉められた。
小さな机とベッド、簡素なクローゼットがあるだけの小ぢんまりとした部屋だった。
ムシュフシュは咲和にベッドを促した。それに従い、ベッドへと腰掛ける。
「あら、そうなりますか」
「ん―――――キャッ」
ムシュフシュが咲和をベッドへと押し倒した。
「あの、これは一体………?」
「サナ様はご自分が皆にどのように思われているかをご存知でしょうか?」
「それはどういう意味ですか?」
腕を掴まれ、押し倒された咲和はそのままの体勢でムシュフシュを見上げて言う。その貌は怪訝に染まっている。
「そのままの意味でございます。皆が、サナ様にどのような感情を抱いているか、ということです。もちろん、皆が皆、好意的な感情を抱いていることは間違いありません。ただ……」
そこで彼女は言葉を切った。それに咲和は首を傾げることで先を促した。
「ただ、それが必ずしも良い感情とは言い難いのです」
ムシュフシュが顔を背ける。しかし、咲和を組み敷いた体勢を改めることはない。
「私達は……いえ、少なくとも私は、貴女のこと抱きたいと思っております」
「………………………………………え?」
思考が追い付かない。
より正確に表現するのなら、思考が追い付こうとしない。追い付いて理解してしまえば、そのままショートすることは過去の経験から必至だった。
月影の道標の初召喚時の事を考えれば当然の帰結だ。
「正確には抱かれたい。しかし貴女は私達の王です。皆それを理解しているからこそ、今の今まで誰一人そのようなことを口にすることはなった。できるはずもなかったのです。自らの手で自らの尊敬、崇拝さえする者を穢すことなど誰が望むでしょうか」
頬を染め、息を荒くするムシュフシュに咲和は何も言うことが出来ない。そんな彼女の様子をよそにムシュフシュは続ける。




