04
「まず、私情を書くべきではありませんね。ヒトに見せることを前提としているのなら、もう少し客観的にわかりやすく書くべきです」
咲和に視線を向けて淡々と告げる。その瞳は既に閉じられていた。
「うぅ……」
「しかしながら、メモの内容自体は悪くないかと存じます。では私から一つ」
メモを置き人差し指を立ててシュガルは告げた。
「人間を連れて行くことだけはやめなさい。イシュとネガルを含めてです。それと「ラハブ」だけは必ず法国へと連れて行く事。彼女がこちらに残っては、人間たちの士気に係わります。彼女の凶暴性、残虐性は聞き及んでおりますからね」
ラハブの凶暴性については咲和も重々承知の上だった。なので、彼女に関してはもとより法国へと連れて行くことが決定していた。
「人間の皆さんを連れて行かないほうがいい理由は?」
「ラハブと距離を置かせたい、それだけです。先も言いましたが、彼女の凶暴性と残虐性は人間たちの士気に係わります。それだけ彼女は危険です。彼女の戦闘を見ていては、コチラの正気が削られていくだけでしょうね」
そこで言葉を切って、メモを咲和へと返した。
「ありがとうございます。参考になりました。ラハブちゃんだけは必ず法国へと連れて行きましょう。彼女もきっとそれを望むでしょうし」
ニコリと笑んでメモを受け取った咲和はそのまま部屋を後にしようと立ち上がった。すると、シュガルがその袖をギュッと掴んだ。
「………?」
「…………」
ただ袖を掴んだまま、シュガルは何も言わない。
「何ですか? 何かありますか?」
「………………」
沈黙を返すシュガル。そんな様子に小さく息を吐いて、咲和はもう一度ベッドに腰掛けた。
「絶対に……」
普段の気丈な態度とは打って変わって俯いたまま、口を開く。
「絶対に、死なないでくださいね」
そんな言葉に咲和は目を見開いた。
俯けた顔を上げ、魔王の瞳をじっと見つめて言う。
「絶対に死なないで。無様に死んだりしたら絶対に許さない」
それは呪詛の様だ。安らかな死すら拒む呪いの祝詞だ。しかしそんな彼女の呪詛を咲和は笑顔で飲み込んだ。そしてぎゅっと彼女を抱きしめる。
「な、何をするんですか!」
「貴女があまりにも可愛いことを言うからです」
「か、可愛い? ふざけたことを言っていないで、早く別の者の所へ行きなさい。私一人の意見ではまだ十分ではないでしょうに!」
慌てふためいて声を上げるシュガルに、流石の咲和もその抱擁を解き立ち上がった。その顔には満足感に溢れた笑みを湛えている。
「はい、では行ってきますね」
「さっさと行きなさい」
「また貴女は、心を掻き乱す………」




