00
咲和が目覚めた翌日のことだ。
ソレは然も当然の様に現れた。
誰もが目を背けることが出来ず、誰もが動きを止めた。
ただ一人咲和を除いて、湖に浮かぶ城に住む全員が玉座に腰掛けたソレに視線を奪われた。
深々と降り注ぐ月影を受け煌く白銀の髪は二つに結われ、その長さは身の丈とかわらない。純白ドレスに身を包んだ姿は花嫁の様だ。全体的に白いソレの中で宝玉の様な双眸は唯々美しかった。
「悪趣味な玉座ね」
玉座には教皇ムンムが足を組んで腰掛けていた。
「貴女の容姿に比べればまだマシですよ」
その顔に邪悪なほどの笑顔を張り付けて、咲和は奪われた玉座に投げかける。
「私も好きでこの躰でいるわけではないわ。ただ、コレは唯一あの方が私に授けてくれたものだもの。無下にするなんてできないでしょう?」
自らの躰を抱き、愛おしそうに頬を染める。
咲和はその姿に顔を顰めた。しかし、未だ他の者たちは現状を飲み込めていない。何故、「ウェールス・ムンドゥス」の支配者たる教皇ムンムが「フィクティ・ムンドゥス」の湖に浮かぶ城に姿を現し、よもや玉座に腰掛けているのか。
「その気味悪く染めた顔をどうにかしてくれませんか? 余りの悍ましさに首を刎ねてしまいそうです」
腕を振るって、その手に衝怒の絲剣を握る。
「あら、恐ろしい。このような場所に長居するのは危険ね。では、手短に用件でも伝えようかしら」
頬に手を当てながら流し目に咲和を見る。敵の本拠地であるにもかかわらず、ムンムの様子は余裕そのものだった。
そして、告げられる。
それは誰もが考えなかった言葉。
同時に誰もが恐れていた言葉。
「私は、いえ、我々「ウェールス・ムンドゥス」は貴女たち「フィクティ・ムンドゥス」へと宣戦布告します」
だから私は、この世界諸共、ソレを滅ぼす。




