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06
咲和に目覚めてから初めての一人の時間が訪れた。
ベッドから抜け出し、窓を開けて風を入れた。湿り気のある夜風が肌を撫でる。見上げれば、深い霧の向こう側から青白い月影が静かに降り注いでいる。
「…………ただいま」
誰に言うでもなく小さく溢した。
あの部屋で最後に聞いた彼女の声は、何も言えなくなるほど、穏やかなものだった。ただ真摯に咲和のことを思っていた。その温かさにコチラでの生活が溶けてしまいそうだった。
でも、咲和はその温かさを振り切って帰ってきた。
後悔などしていない。
するはずもない。
「トラウェル・モリス」には二人の姉と十一の獣、イシュやシュガル、捕虜となった人間たちがいる。咲和にとってその誰もが、今ではかけがえのない大切な家族だ。
そんな家族たちの待つ場所に帰ってきたのだ。
後悔などするはずもない。
でも、ただ少し。
ほんの少しだけ、
あのぬくもりを感じていたかった、
ただそれだけだ。




