03
咲和が目覚めたその日の夜のことだ。
「どうかしましたか?」
「個人的な言葉をお送りしていなかったので……」
咲和の部屋をシュガルが訪れた。
「お目覚めを祝福します。イシュも大変喜んでおりました」
「シュガルさん」
「なんでしょう?」
「もう、やめませんか?」
「何をでしょう?」
首を傾げるシュガルに、小さく溜息を吐く咲和。
「それです。本心を隠して言葉を飾る必要はありません」
シュガルが湖に浮かぶ城に来て以来、彼女の咲和に仕える姿勢はいつでもテンプレートじみていて、心を感じることがなかった。
故に、咲和はシュガルが己の本心を隠して、言葉を飾っているように感じたのだ。
「では、サナ様は私が言葉を偽っていると、お考えなのですね?」
「そう言うことではありませんよ。ただ本心を隠してまで、私に仕えている理由が気になっているだけですよ」
「それは、命令ですか?」
思いがけない言葉に、咲和は瞬間言葉を失う。しかしすぐに彼女の望む言葉を理解した。しかし彼女の望む言葉をそのまま口にしては、本心を聞く機会は失われてしまうだろう。
だから咲和は、
「ええ。これは魔王たるキングゥからの命令です」
ニコリと、少女のように笑む。しかしその笑みから汲み取れるのは、絶対に聞いてやる、と言う強い意志だけだ。
「そう、ですか………ならば仕方がありませんね」
「はい。仕方がありません」
今度はいたずらの成功した子供のように屈託のない笑顔で応える。一方でシュガルは小さく息を吐いた。
「では、……………貴女様と二人きりの時のみ、私はその本心のみで言葉紡ぐことにしましょう」
「あ。妥協点を付けるのがうまいですねぇ」
頬を膨らませてシュガルの妥協を受け入れた。本当であれば誰と過ごす時でも自分に対しては、本心で話してほしかったのだ。




