01
咲和が眠りに就いてから半年が経った。
半年間、イシュは毎日欠かさず彼女の部屋へと足を運び、その日あったことを伝えた。
ウシュムガルの悩みを聞いてやった。ラハブの遊びに付き合って死にかけた。クサリクの下で料理を習った。クルールの話し相手になった。シュガルと「ウェールス・ムンドゥス」へと出かけた。ネガルと戦闘訓練をした。人間の娘たちと笑い合った。
様々な出来事があった。言葉だけでは伝えきれない尊き日々。そんなかけがえのない日々を過ごした。
でも、そこには咲和がいない。
ただそれだけ。独り欠けただけで、イシュの世界は灰色へと堕ちる。
全ての色が喪失し、心すら壊れかけた。
いつ何時、咲和の首を縊り、自身の命すら絶つともわからない精神状態。
余りにも薄い氷の上でイシュは日々を過ごしていた。
そんな薄氷の上の日常が今日も終わろうとしていた。
「今日はウリとウムの二人と手合わせをしたのだ。あの二人は他の者に比べてやはり加減が下手だな。ウガルルムが過保護なのが原因と余は見ている。一度ビシッと言っておく必要があるな。そもそも、あの二人は下に妹がまだいるのだから少しはそれを自覚するべきなのだ」
「あの二人はまだまだ幼さが残っていますからね」
手元に落していた視線が硬直する。触れていた咲和の手がイシュの手を握り返している。
イシュはぎこちない動きで視線を上げた。そして、目を見開いた。
「―――――――――――――――――――――――――――――さ、な?」
「はい、貴女の愛しい暁月咲和です。イシュさん」
言葉を理解する前に何もかもが溢れた。
それは安堵であり、それは怒りであり、それは途方もないほどの喜びだった。
「サナ………サナぁ、サナぁぁぁぁぁああああ!」
イシュはその端正な顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃに崩しながら、目を覚ましたばかりの咲和へ抱き着いた。
「サナぁ、サナぁ、サナぁあ」
「はい、私はココにいますよ」
イシュの頭を撫でてやりながら、咲和は微笑む。
そうして、イシュは自然と涙が止まるまで泣き続けた。
当然、それは悲しみに因るものはなく、嬉しさと喜びに因る涙だ。




