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【改稿版】十一の獣は魔王と共に  作者: 九重楓
第二部 10章 境界を渡る

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08

「お前がその唯一の子であるなら………その魔力量にも納得がいく…………要するにお前は神の子だってことだからな」


 咲和の思考はファウストの、憎しみすら籠った言葉によって遮られた。


「か、母さんは神様なんかじゃありません。只の、私の母さんです………子供たちのことが愛しいだけの、ただの母親です」

「そうか………ならばお前は神々すらもただの個人だと言いたいわけか。代えがたい唯一(、、、、、、、、)だと?」


 やはりそこには憎しみに似た感情が存在する。その感情が誰にぶつけられるべきなのか。きっと彼女自身わかっていなかった。


「ええ、そうです。母さんは代えがたい一人です。神なんて大それた者じゃありません。確かにそこにいた、愛しい人です」


 「トラウェル・モリス」へ召喚された時に聞いた大いなる母の言葉と、湖に浮かぶ城で見た肖像画を思い浮かべて咲和は笑む。

 しかしその笑みですら、ファウストにとっては神経を逆撫でする不快なものでしかなかった。


「―――――――ッチ。よりにもよって、愛しい人だと? ふざけるな………ふざけるな! そんなもの許されない。許される感情であるはずがない!」


 感情の発露と共にファウストは黒を纏った(、、、、、)。それはあるべきではない感情の発露だ。独りの人間が纏うには余りにも神々しい。

 ファウストは腕を振りかぶる。その指先には青白い光を纏わせる。


「―――――――――――ファウストさん! それはダメです」


 ミオがファウストの咆哮に水を差す。

 振りかぶられた腕は降ろされることはなく、紅玉は滴を溢す。


「それでは貴女のことを大切に思っている人が悲しんでしまいますよ?」


 ファウストの指先から青白い光は消える。その場にぺたんと座り込んでしまう。


「貴女が母さんのことをどう思っていても構いません。でも、私にとって母さんは愛しくかけがえのない唯一です」


 座り込んでしまったファウストの目線に合わせるように腰を折って、咲和は彼女の手を取った。


「お前は…………どうしたいんだ? どうしてココへ来た? この世界にお前の知るモノはいない…………」


 憐憫を含んだ言葉だった。自分にはお前を救うことは出来ないと、そういった意味を言外に持たせた。

 咲和もそれを感じ取り、静かに目を閉じる。


「そう、ですよね…………やっぱり、ココと向こうは違う世界なんですね………。ココでの私はちゃんと生きてて、彼女(せんせい)とパートナーで幸せで……………私はココにいるべきではない」


 閉じられた瞼の裏側に「トラウェル・モリス」での生活が流れていく。それは走馬灯のようで、好きだった映画を見ているような、そんな懐かしさと憧れに満ちていた。


「ファウストさん、私は………………帰りた――――――――」

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