09
着替えが終わって、ベルを鳴らす。小気味良い音が部屋に響く。そして、すぐに扉をノックされた。
「サナ様、クサリクが参りました」
その声は、十一の獣が八女、クサリクの物だ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
呼び掛けに、咲和は頭を抱えてしゃがみ込む。
「サナ様? いらっしゃいませんか?」
二度目の呼び掛けで自分が呼んだことを思い出し、はっと顔を上げた。
「あ、え………」
駆け寄って扉を開ける。廊下に出ると、クサリクが心配そうに眉を傾けていた。
黄金色のロングストレートヘアで、側頭部からは牛のような青色の角が生えている。翡翠色の宝石のような瞳の釣り目で、黒いローブを羽織っている。その中はラハブと同様の白いワンピースドレスだ。角や翡翠色の瞳もさることながら、その身長は二メートル近い。成人男性を超える身長だが、咲和に与える印象は決して威圧的なものではなかった。老齢の巨獣のような包容力と静けさが感じられた。
「いらっしゃいましたか。どうぞ、何なりと」
一度、晴れるような安堵の表情を浮かべて、クサリクは傅く。
「あ、え、あ…………」
ラフムとラハムに呼べと言われたから呼んだだけであって、特別何か用があったわけではない咲和は困惑する。しかし、ココでは自分のことを皆が王だと思っている。
「「着替えが終わった様ね。良く似合っているわ」」
廊下の奥から現れたラフムとラハムの言葉に咲和とクサリクは視線を向ける。
「お二人がサナ様を?」
「「そうよ、クサリク。もう下がっていいわ」」
「………かしこまりました。では、失礼いたします」
立ち上がり、深い礼をしてクサリクは立ち去った。
「「では、行きましょうか」」




