07
「あん? 話していることに違和感でも覚えたか? そうだろうな、これはこの世界には存在しえない言語だ。あたしもこんな言葉を話すのは初めだ。だから問う、なぜお前のような者がココにいる? ココはお前が居ていい世界じゃない」
自分がココに居ていい人物でないことは理解できる。
咲和はこの世界では既に死んでいて、自然の摂理に反する。でもそれは、ファウストが「トラウェル・モリス」の言葉を話している理由にはなり得ない。そして、咲和の存在が許されないものだと知っている理由にもならないのだ。
「この世界にお前の魔力量は異常過ぎる」
その言葉に咲和は驚愕を隠せない。
聞き慣れない言葉ではなかった。魔力は「トラウェル・モリス」では普通の言葉であり、誰もが聞いたことのある言葉だ。しかし、ココは違う。
ココは咲和の元々居た世界で、魔術なんてものは存在しないはずだった。
「なんだその顔は。もしやお前、この世界に魔術が存在することを知らなかったのか?」
「だって、魔術なんて………見たことも聞いたこともなかったですから」
「じゃあその魔力量は何だ? おいミオ、お前は理由を知ってんかの?」
言葉はミオに向けられる。ミオは小さく息を吐いて、口を開いた。
「彼女はティアマトの唯一の子です。これだけで伝わりますよね?」
「…………マジで言ってんのか」
言葉には怒気と驚嘆と幾ばくかの納得が含まれていた。
ミオは頷く。それにファウストは溜息を吐いて応えた。
「ティアマト………神々の母、魔獣を創りし者、始まりの魔法使い………創世神」
ファウストは囁くように言葉を連ねた。それはどれもがティアマトを呼称するものだ。しかし、そのどれもが咲和には馴染みのないものだった。
「トラウェル・モリス」ではティアマトは大いなる母と呼ばれることがあっても、神々の母や始まりの魔法使いなどと呼ばれることはなかった。そして何より、創世神などと呼ばれることなどあるはずもない。「トラウェル・モリス」を創ったのは大いなる母を滅ぼした、マルドゥクなのだから。
大いなる母は無尽蔵に生命を生み出すことは出来ても、世界そのものを創造することは出来なかった。そんな偉業を成せるのは、大いなる母を滅ぼすことのできたマルドゥクだけだった。
しかし、そこで咲和の中に一つの疑問が出てきた。
ならば、母さんが居た場所は誰が作ったのか。
そもそも大いなる母と大いなる父は、光と闇だけが渦巻き、混沌しかなかった世界に生まれた。ならば、世界を創造し二人を生み出した者がいるはずだ。
その者こそが真に創造―――――




