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【改稿版】十一の獣は魔王と共に  作者: 九重楓
第二部 8章 遠く愛しき人を思う

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04

「そう、貴女には家族がきちんといるんですね……よかった」

「よか、った?」

「そうです。貴女には家族がいるんですよね? それが血の繋がりの無いものだとしても、貴女には気持ちを共有したいと思える家族がいる。それはとても尊いものです」

 彼女は咲和の頬に柔らかく触れた。その温かさを咲和はどこかで感じたことがあった。痛みと怒号と嘲笑に満ちた日々の中に埋もれて消えかけていた、短かったけど温かく優しき時間の中にあった。

「私はもう、愛しい人(、、、、)と離れて久しいですから………。貴女には、家族との時間を大切にしてほしいんです」

 赤子を撫でながら、彼女は哀愁を纏った笑みを浮かべる。それは遠い昔、どこかで見た彼女(せんせい)の微笑みに似ていた。

「貴女は今から何処へ行くんですか?」

「…………家族の元へ」

「そう。では、私も家族の元へと行きます」

 女性は立ち上がり小さく手を振って踵を返す。

「あの、名前を教えてくれませんか?」

 縋りつくかのように、咲和は彼女を引き留めた。それはどこか遠い昔の記憶を重ねるかのようだ。


「ミオ。アラガキ・ミオ、です」


「――――――――――――――――――――――――え?」

 その発音は懐かしさを感じさせた。初めて聞く名前のはずなのに、その名前には聞いたことがあるかのような馴染みがあった。

「簡単なことです。私は、貴女の先輩。ほんの少しだけ、先輩なだけなんです」

「それはどういう―――――」

「―――いずれ理解しますから、今はまだ、家族を大事にしてあげてください。いつか、貴女が思い出す(、、、、、、、)その時まで」

 咲和の言葉を遮って言葉を紡いだ。そして小さく手を振って、今度こそ中心部の役場へと歩を進めた。


 そんな彼女に咲和は何も言えず、ただその背中を見送るだけだった。

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