02
ふと視線を動かすと視線の端に何かが動いた。
(誰か、いる?)
影だけだったが確かにそこには誰かがいた。
不意に影が咲和の方を向いた。
そして目が合った。真っ黒な影の中でその瞳だけが寂し気に赤色の光を湛えていた。色の印象とは異なる雰囲気を纏った瞳だ。
「また、来たのか。どうしてココに来た?どうやってココに来た?」
影は捲し立てて問いかける。
しかし、咲和はその言葉に返す言葉を持たなかった。彼女にはココがどこで、影が誰なのか分からなかった。
「なんだ、分からないのか? まぁ、なんだ。お前のことだ。無意識のうちに境界を越えるなんて、平気でやってのけるんだろうな。全く大したものだよ、お前は」
誰か分からない影は一人で納得した。しかし、言葉は紡がれる。
「前みたいに急にいなくなるかもしれないからな、無駄話は終わりだ。ココからはお前にとって重要な話だ」
影は立ち上がる。徐に星を掴んだ。そして星は砕かれた。
「どこにもいくな。あたしの話を聞いていけ」
影は星の光を纏った指を振るう。すると咲和の身体は宙を浮く。もう一度振るうと星が墜ちてきた。墜ちてきた星はそのまま咲和の下に入ってきた。
星はクリスマスの飾りのようだった。
「座れ」
言葉はそれだけで呪文のように咲和の身体を動かした。飾りの星にちょこんと腰かける。
咲和の目には既に影は影ではなかった。しかし、その形をうまく言葉に出来ない。認識を阻害されているかのような違和感があった。
「悪いがこうしておかないと後々面倒なんだよ。あたしの事を知らないようだったしな」
その言葉は理解できず、しかし口を開くことは出来ない。
「では、話をしよう。これは愚かな一人の女の話」
愛と狂気と訣別の話だ。




