06
「此度、この戦場において勝利は不要。凱旋など不要。凱歌など不要。栄光など不要。ならば、この身、この命など捨てても構わぬ! 我が母、叡智の霧の名の下に、我が身体を捧ぐ――――我が身体は仇敵穿つ劫火とならん!」
魔術陣は描かれ、詠唱は完了し、魔術は完成する。
彼の身体を炎が包み込んだ。それは鮮やかな青色の炎だ
青色の炎は次第にその形を変えていき、最後には一羽の巨大な鷲へと変化した。
炎の鷲は一度、円を描くように空を舞うと、そのままサナへ向けて放たれた矢のように真っ直ぐ飛んだ。
サナは炎の鷲を一瞥し、刹那の内に魔術陣を描いた。
「底深き混沌の器、敬虔なる獣の信徒。否定、拒絶、反発、削り、崩壊を齎す。壁を成す蛇の群れ。その瞳は映した全てを凍らせる――――魔眼の獣は王護る盾とならん」
詠唱は完了し、サナと炎の鷲との間に黒白の渦巻いた膜が現れる。
炎の鷲はそんな膜を気にすることなくサナへと突き進む。
そして遂に膜に激突した。すると、膜は貫かれることはなく、炎の鷲は完全にその侵攻を止めた。
炎の鷲は啼く。
全てを貫かんと燃え上がる。
自らの全てを賭して燃え上がる。
「逝け」
意味のないものだと吐き捨てるように、サナは侮蔑を言葉にする。
小さく指は鳴らされた。
パチン、と言う小さな音と共に一陣の風が過ぎ去る。
そこには既に孤高の炎鷲はあらず、透き通るような青空が広がるのみだった。
眼下で二匹の蛇竜が静かにその姿を消した。
「…………………死なせぬ、私が絶対に」
その言葉を最後に蒼黒の光は咲和の身体を離れて霧散した。




