06
「十一の獣が長女、ムシュマッヘ」
長女ムシュマッヘは、漆黒のシンプルなドレスに身を包み、老若男女関係なく魅了する妖艶な肢体を持つ長身の女性だ。その腰からは艶かしささえある光沢を持った、蛇の尾が垂れている。
「十一の獣が次女、ウシュムガル」
次女ウシュムガルはムシュマッヘに比べると小柄で、黒いゴシックドレスに身を包み、背中からは巨大な蝙蝠のような翼、スカートの中から艶やかな鱗を持つしなやかな尾、その両腕は鎧のような鱗で覆われていた。その瞳は炎のような緋色だ。見ているだけで心を焼かれそうになる。
「十一の獣が三女、ウガルルム」
ピシっとしたバーテン服に身を包む三女ウガルルムは、頭頂はオレンジ色、先に行くほど黒色になっていく奇怪な長髪で、その毛量はかなり多い。その瞳は琥珀色に輝いている。奇怪な髪色も気になったが、何よりもムシュマッヘを超える身長は、生前の世界の成人男性でも中々見かけないほどだった――――――――――
―――――――こうして十名の名乗りは終わった。十一の獣は名の通り、全てが「ティアマト神」の作り上げた、十一体の魔獣の名を冠していた。が、一人足りない。咲和はその一人が誰なのかこの時はわからなかった。
(この人たちを私が指揮する?)
自覚すると一気に不安が押し寄せる。それは、大海の大波の様に咲和の小さな心を飲み込んだ。耐え切れないほどの不安に吐き気がしてくる。
(今すぐにでも逃げ出したい。この人たちの上に立つなんて無理だ。絶対に無理だ。)
そう考えていた時だ。
「「さぁ、紹介は済んだ。仕事に戻りなさい」」
ラフムとラハムの言葉に、ムシュマッヘをはじめとする十一の獣は立ち上がり、部屋を出ていく。
全員が出ていく中で、咲和のことをジっと見つめている者がいた。
それは十一の獣が六女、ラハブだ。
彼女たちの中で一番背が低く、保育園児ほどの身長。白銀の髪は外はねの激しいロングヘアで、その色は咲和のものと似ている。白いワンピードレスを着ているが、その背中からは毒々しく太い蛸の脚が二本生えていた。そんな二本の触手よりも、咲和が気になったのは、その瞳だ。深海を思わせる深い青色の瞳。それはどこか母さんを思わせた。
「…………」
何を言うこともなく、ラハブは咲和のことをじっと見つめる。その視線は新しい獲物を見つけたサメのような危うさを孕んでいた。
しかし、自身に向けられる視線に弱い咲和は、その危うさに気付かずそっと視線を逸らした。
「「まだ何かあるかしら?」」
「いんやぁあ。まだ弱いよね?」
二人の少女の声にラハブは視線をそちらに向けて答える。そこには危うさはすでにない。
「「先も言ったはずよ。目覚めてまだ浅い」」
「だよね。仕方ない仕方ない……。僕たちも生まれたては雑魚雑魚だったからねぇ」
言い終わると、パタパタと駆けて部屋を出ていった。
咲和には彼女の行動がよく理解できなかった。
「「アレのことは気にしなくて結構よ。私達でも手を焼くような問題児だから。さぁ、貴女の部屋に案内するわ」」




