02
(―――――――――あ)
やはり、彼は笑っていた。
狂ったように、穢れなきように、どこまでも純真に、無垢であるかのように。何も知らぬ赤子の様に彼はケタケタと笑う。
感じる全てを楽しむかのように、ケタケタ、ケタケタ、ケタケタと。
怒られる。お前が悪いのだと。
詰られる。お前は愚図なのだと。
奪われる。お前にはもったいないと。
呑まされる。お前にはこれで十分だと。
虐められる。お前が汚いからだと。
蹴られる。お前は邪魔なのだと。
殴られる。お前はいらない子だと。
それは生前の記憶。
誰もが不気味なほどの無邪気な笑顔を張り付けた地獄。
遠い昔の、歴史と言うには陳腐で、忘れ去るには残酷な、遠い遠い昔の記憶。
そんな、暁月咲和の記憶。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――――」
咲和は絲剣も投げ出して、頭を抱えて蹲る。
怒らないで、詰らないで、奪わないで、呑まさないで、虐めないで、蹴らないで、殴らないで、許して。
咲和の中でシミは濃くなり、深く深くに浸み込んでいく。いずれ、それはとある疑問を伴って表層に現れる。
なんで? と言う、ありがちな疑問と共に。
なんで私が怒られなきゃならないの?
なんで私が詰られなきゃならないの?
なんで私が奪われなきゃならないの?
なんで私が呑まされなきゃならないの?
なんで私が虐められなきゃならないの?
なんで私が蹴られなきゃならないの?
なんで私が殴られなきゃならないの?
なんで私が――――――――――――――――――――殺されなきゃならなかったの?




