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【改稿版】十一の獣は魔王と共に  作者: 九重楓
第二部 6章 黒いシミ

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01

偽りの(フィクティ・)(ベースティア)無垢なる(ベースティアエ・)(ルナティクス)?)

「おれは、偽りの(フィクティ・)(ベースティア)。お前と同じ、お前もおれと同じ」

 ケタケタと無垢なる(ベースティアエ・)(ルナティクス)は笑う。

「何が言いたいのですか!」

「答えた。お前が何者か、聞いた。だから、おれ答えた。おれは偽りの獣。無垢なる獣。お前と同じ、偽りの獣」

 同じことを繰り返す。それでもやはり咲和にはその意味が解らなかった。

 偽りとは、どういう意味なのか。

 無垢とは、どういう意味なのか。

 同じとは、どういう意味なのか。

「お前は、一人、違う時代(とき)を生きた。おれと同じ。お前は、魔王(キングゥ)じゃない」

 それは、咲和の抱いた疑問に対する一つの答えだった。


 母さんの顔すら知らない自分は本当に唯一の娘なのだろうか。

 

 湖に浮かぶ城(アルキス・メモリア)の中で、人間を除けば咲和だけが大いなる母(ティアマト)と会ったことがない。咲和にとって大いなる母(ティアマト)とは肖像画と本の中だけの存在なのだ。

 家族の敬愛する大いなる母(ティアマト)に会ったことがない、と言う事実が咲和にとって黒いシミとなっていた。

 無垢なる(ベースティアエ・)(ルナティクス)の言葉がそのシミをより深く、より濃くする。


「お前は―――」

「黙れ!」

 無垢なる(ベースティアエ・)(ルナティクス)の言葉を遮って叫ぶ。彼の言葉をこれ以上聞いてはいけないと、とっさに判断した。これ以上は自らの心を軋ませるだけだと。

 衝怒の絲剣イーラ・フィールムグラディウスを握って咲和は地面を蹴った。

 無垢なる獣は動かない。

「そのまま逝け!」

 勢いをそのままに絲剣を振り抜く。しかし、それを無垢なる(ベースティアエ・)(ルナティクス)は右腕で受け止めた。刃は肘までを斬り裂いた。ダラダラと血が流れ、二人の足元に溜まっていく。

「イタイイタイイタイイタイイタイイタイ。コレが生きてるってことなんだろぉお?」

 ケタケタと笑う。

 足元に溜まっていく血を見ることで冷静さを保とうとした。今顔を上げれば彼が笑っているだろうから。

「なぁあ? なぁあ、何でも楽しまないとなぁあ? 生きてるって、そう言うことだよなぁあ? アハハハハハハハハハハ」

 甲高い笑い声が聞こえる。彼が笑っている。咲和は衝怒の絲剣イーラ・フィールムグラディウスを振り抜こうと力を籠める。しかしそれ以上進まない。進まないことが分かった以上、これ以上は時間の無駄だ。そうと分かった咲和は衝怒の絲剣イーラ・フィールムグラディウスを抜いて、そのまま距離を取ろうとする。


「――――キャッ」

 しかし溜まった血に足を取られて尻餅をついてしまった。そして、見てしまったのだ。

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