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十年前、獣に因る大規模な侵攻があった。
侵攻は知性のある一部の魔獣たちが独断で行ったものであり、それは咲和の与り知らぬところで起きた。だから、彼女がそれを知ったのは随分と経ってからだった。
魔獣による大規模侵攻により「ウェールス・ムンドゥス」の最南に位置する法国を除く、大陸全土が甚大な被害を被った。特に帝国と王国は当時の皇帝と国王を失っている。
帝国は自国のみの力で、王国は法国からの援助で、被害から五年と言う歳月を掛けて復興を成した。その後、帝国は領土拡大の為に王国へと侵攻したのだ。
帝国の侵攻による戦争も元を辿れば、獣の進行が原因だ。帝国への侵攻は今まで決してなかったわけではないが、その頻度は少なく、規模も小さいものだった。小規模な魔獣の群れが迷い込んでくる程度だったのだ。
それ故にその為に別途の軍事力を必要としなかった。しかし、この侵攻で自国も標的とされていることが明らかになった以上、今のままでは不安が残る。その為の軍事力の強化と領土の拡大を目的とした戦争は勃発した。
愛する祖国を侵され、信頼する指導者を失った残された者の悲しみは深く。何より、「フィクティ・ムンドゥス」の獣に対する憎悪は深く根付いてしまった。
「「それもそうね。サナ、行ってらっしゃい」」
二人の姉は席を立ち咲和を挟む様に抱きしめる。
「はい、行ってきます」
愛しき姉たちの抱擁を受け入れ、それぞれの手を両手で包み込んで微笑んだ。




