02
王城を取り囲む深い堀に掛けられた橋の前には「ナンナイ・クルウ帝国」の皇帝城の前同様に、二人の門番が配置されていた。
陳腐な灰色の鎧を身に纏い、その手には長槍を握る門番は三人の存在に気が付く。
「どこのご令嬢かは存じ上げませんが、ココがどこだか知っておいでですか?」
門番の一人が三人に近づき声を掛けた。
「余を知らぬだと? この国の教養のレベルが知れるな」
「聞き捨てなりません。私に対する言葉はいくらでも容認いたしましょう、しかし、我らが王国に対しての愚弄だけは容認しかねる!」
長槍を構え、イシュへと向けた。
(その短気こそが教養のレベルと言うやつよ)
「ネガル」
イシュは短く呼び掛ける。ネガルはそれに頷き、一瞬のうちに門番の長槍を破壊して見せた。ネガルは帝国でも指折りの実力者であり、獲物がなくともただの人間が敵うような相手ではない。
「余は、「アリシア王国」が国王、エンリル・ベル・アヌンナキに謁見しに参った。門を開けよ。さもなくば、民たちがどうなるか………。余の知ったところではないがな」
悪魔的な笑みを浮かべ、門番に一歩歩み寄った。すると門番は一歩後退る。他の門番も同様に一歩後退った。
「門を開けよ、そして伝えるがよい。大いなる敵が参ったと」
堂々と宣言し、胸元から機械仕掛けの帝剣を引き抜いた。
声を掛けてきた門番を除いた三人の門番は逃げるように開門の作業に移った。
残った一人の門番は俯き、長槍の破片を握り締める。彼の中では、愛国心と己の弱さとがせめぎ合っていた。この場で逃げ出したところで彼を咎める者は誰もいないだろう。事実他の三人は逃げ出してイシュの命令に従っている。自身の愛国心を守るためにその他多くの国民を危険に晒すわけにはいかない。だから、彼がこの場でする行動は一つしかなかったのだ。
他の三人と同様に開門することだ。
しかし、彼はどこまでも愚かだった。
「大いなる敵と言うならば、国王の下に行かせるわけにはいかない!」
隠された短剣を握り、イシュへと斬りかかったのだ。
そんな刃が届くはずもない。
愚かな刃はイシュを切り裂く前に、彼自身の喉を切り裂いた。
イシュへと向けられた短剣はネガルが彼の腕を捻り、奪う。そして、そのまま彼の喉を切り裂いたのだ。
「ふん。その愛国心をもう少し御することが出来れば、お主は良き騎士になれただろうに」
イシュは門番に一瞥をくれた。
そして門は開き、謁見の時は近かった。




