04
二人の案内でたどり着いたのは、明らかに人間用ではない巨大な扉――扉と言うよりも門と呼べるサイズ――の前だった。
「「さぁ、皆が待っているわ」」
二人が扉を押す。その巨大さとは裏腹に二人の小さな手で簡単にその口を開けた。
扉の先は、教会のような縦長の部屋だった。
中央には赤色の絨毯が敷かれ、それが部屋の奥まで続いている。天井から延びる支柱には、蛇が口を開けたような意匠が施されている。見上げれば幾枚ものステンドグラスから、静かに月光が差していた。そのステンドグラスにすら大蛇が描かれている。
不気味なステンドグラスから目を背け、咲和は奥へと目を向けた。そこには玉座があり、ココが玉座の間であることが分かった。そして玉座の前には十個の影が見える。玉座の奥の壁には、白銀の髪を二つに結った少女の巨大な肖像画が掛けられていた。
「「さぁ、行きなさい」」
ラフムとラハムが咲和の腰を押す。
「「己が従者に名乗りを上げてくるのよ」」
咲和は不安げに二人を振り返る。しかし、二人は小さく首を振る。
「「大丈夫。貴女なら受け入れられるわ。だって、私達が受け入れたのですもの」」
その声は少女の様でも人間味の欠けたものでもなく、母さんの声に似ていた。自分のことを愛しいと言ってくれた、あの母さんの声だ。咲和の頭に渦巻いていた混乱が紐解けていく。そして、凪の海の静けさのような冷静さが訪れた。
(――――キングゥ。十一の獣の指揮者にして、母さんの唯一の子)
ラフムとラハムの言葉を頭の中で反芻し、月光を受けて煌く白銀の髪を靡かせて歩き出す。
十個の影が振り返った。しかし影は濃く、その顔を窺うことはできない。一歩踏み出す。すると、十個の影は左右に道を開けた。咲和は気を引き締めるように手をぎゅっと握る。




