05
彼女は手にする短剣で魔物の凶刃を受け止める。しかし、体格差は埋めようがなく。その差が彼女を徐々に押し込まれていく。
そして、その時は来てしまった。
魔物が右腕を振るった。
ヒュン、と風が鳴る。
それは噴き出した。
景色が染まる。
今まで見たこともない鮮烈。
今まで感じたこともない恐怖。
「――――――」
私は声もなく悲鳴を上げる。
身体がズレた。
イシュ様の身体がズレた。
左肩から右腹にかけてがズレた。
そんな非現実的な光景。
握られた短剣はそのままに、彼女はその身体を二つに切断されたのだ。
「イ、シュ………様…………」
そんな言葉と涙だけが零れた。
「肉体からの解放、魂の牢獄…………」
イシュ様の後ろに隠れていた少女が何かを言った。
「安然の世界。地を堕とし、今ここに冥府の顕現を………」
詩の様に言葉は尚も紡がれる。
少女の手元に光が灯る。それに気が付いた魔物が、左腕を振り上げる。
「私は冥府の主人とならん。死者は須らく、その全てが私の物だ」
今度こそ、私は地面を蹴った。
(間に合え!)
少女は動かない。
魔物はその凶刃を振るう。
「死に、滅び、腐敗せよ――――冥府の檻は死を内包する!」
少女はその目を見開いた。
濁った琥珀色の瞳が真っ直ぐに魔物を映す。すると、
「――――え?」
魔物は卵のような籠に囚われていた。
籠の中で魔物は逃れようと暴れる。凶刃を振り回し籠を破壊しようと試みるも、籠に触れた部分から腐敗していった。ボロボロと体は朽ちていく。
いずれ、魔物の身体その全てが腐敗して、籠の中で朽ち果てた。




