04
いつものように訓練を終え、修行の場としている森から帰ろうとした時だった。遠くから少女のモノと思える悲鳴が聞こえた。
私は居ても立っても居られず、悲鳴の聞こえた方へと駆けた。
辿り着いたそこは、森の入り口、帝都へと続く道だった。
そして、そこには二人の少女がいたのだ。
一人は尻餅をついて酷く怯えている。その目をぎゅっと瞑り、声もなく泣いている。
もう一人は、怯えている少女の前に立ち、頼りない短剣を手にして守ろうとしている。その目は力強く目の前の脅威を睨みつけている。そんな少女に私は見覚えがあった。
そして、そんな彼女たちの前には、一体の異形があった。
その姿はカマキリに似ている。
腕は鎌状になっており、全身が鎧のような甲殻に覆われている。その尾は蠍の物で、その頭部は人間の物だった。
人間の頭にカマキリの腕、甲殻に覆われた躰、蠍の尾。そんな醜い化け物が少女の前に迫っていた。
「お前のような魔物、次期皇帝のあたしが切り伏せてやる!」
短剣の少女は自身を鼓舞するかのように叫ぶ。
彼女は、次期皇帝候補のイシュ・アッガシェル様。齢7歳の幼子だ。そんな彼女は怯える少女を背に、大人すら逃げる魔物を前に一歩も引かずに立ち向かっている。
私はそんな彼女と魔物を前に足がすくんだ。
あんなものに敵うはずがない。
(貴女のような子供では弄ばれて殺されるだけだ……)
(逃げて!)
(貴女はこの国の皇帝になる人だろ!)
(こんなところで死んじゃいけない!)
(お願い、逃げて!)
そこで私は、自分の声が出ていないことに気が付いた。
掠れた嗚咽のような物だけを吐き出す。
叫びは届かない。
イシュ様の後ろで少女は必死に地面を画く。
(逃げて……………逃げろ………逃げろよ!)
私の叫びが音持つことはなく、魔物は咆哮し、左腕を振り下ろす。
「―――――――――――――ッ!」




