02
「して、ネガル」
街を行く中、先頭を歩くイシュが立ち止まり、振り返った。
「はい、何でございましょう?」
ネガルはパチパチと瞬きをする。
「お主のその話し方、何とかならんのか?」
「と言いますと?」
イシュの言葉にネガルはとぼけて見せる。ネガルが皇族であった彼女に対してこのような態度をとることは珍しい。
「それだ、それ。再三言ってきたはずだが……。改めるつもりはないらしいな」
「はい。いくらイシュ様のご命令とあれど、それだけは聞けませぬ」
指をさしてイシュが指摘するも、ネガルは力強く頷くだけだ。彼女が気にしていたのは、ネガルの言葉遣いであった。
皇族に対して敬意を示した言葉を選ぶことに何も間違いなどなかった。しかし、それはもう過去の話だ。
現在、イシュ、シュガル、ネガルの三人に身分の違いなどなかった。三人が等しく、魔王たる咲和の所有物だ。そのことをイシュとシュガルは早期に理解していた。「フィクティ・ムンドゥス」で咲和に逆らったところで、死期を早めるだけだと。ならばと、二人は自らの身分を殺した。自分たちは既にただの一人の娘であると。
しかし、ネガルだけは違った。ネガルは自らの仕えるは皇族である二人だけであると考えている。それがどれほど愚かなことなのか、理解しつつもネガルはその考えを捨てることが出来なかった。
それほどまでに、ネガルと二人の皇族との出会いは衝撃的なものだったのだ。
「お主が余らに何を期待しておるのか知らぬがな? 余らはもう既に皇族ではない。その血を引いているだけのただの小娘にすぎんのだ」
呆れたように話すイシュに対してネガルはぎゅっと拳を握る。
「しかし、しかしです………。私にとって、仕えるべきは貴女方以外にはあり得ないのです……。ご存じのはずです。私がどのような思いで、どのような経緯で、騎士として貴女方に仕えたかを……」
握られた拳は解けることはなく、脳裏には、二人との出会いが走馬灯のように流れた。




