06
「姉上、ネガル。待たせたな」
イシュはその手に持てるだけのありったけのシーツを持って、二人の下に帰ってきた。
「あら、それはどうしたの?」
「そこな家の者が快く譲ってくれたのだ」
イシュは笑顔で答える。その言葉が偽りであることを姉に知られることのないように。しかしシュガルはそんな嘘はお見通しだった。彼女の持ってきたシーツはその量から二人分以上の量だと分かった。そんな量のシーツをこんな田舎の集落に住む者が、突然現れたドレス姿の少女に手渡すわけがない。
であれば、イシュが不当な手段で手に入れたと考えるのが妥当だろう。シュガルはドレスが乱れておらず汚れてもいないことから、殺しを行った可能性は切り捨てていた。ならば、それ以外。脅迫やそれに近しい行為によってシーツは略奪されたと考えることが出来る。
シュガル同様にネガルもイシュが不当な手段を用いてシーツを手に入れたと考えた為、その表情には疑念が現れている。
「そう。ではネガル、シーツをお願いできるかしら?」
「………か、かしこまりました」
憧れの人に名を呼ばれたことで、ネガルの疑念は一瞬で霧散する。そして、イシュからシーツを受け取ると、馬車の中に敷いた。
それを横から覗いたイシュの顔は満足感に溢れている。それを見たネガルの表情も少なからず和らいだ。
イシュとシュガルが馬車の中へ乗り込み、ネガルが手綱を握った。
「良し! では、出発だ!」
イシュの元気のいい掛け声と共に、鞭は打たれ、馬車は出発した。




