私、そんなの説明されてないです。2
「実はアリサのその後に関して情報規制を敷いていたからだ」
「なぜですか?秘密にしなくてはいけない任務があるとか…」
「そうじゃない。その逆で、アイツが一切成果をみせなかったからだ」
「アリサは聖女だ。身分としては実質王族に次ぐ。しかもこちらの都合で召喚したこともあって丁重にもてなした。しかし、アイツは国になんの貢献もしなかった。しようともしなかった」
「なるほど…そういう事情があったんですね」
「ああ。そして、決定打になったのはアリサ付きの使用人と王宮の従業員、そして数名の貴族からの王族への正式な直談判だ」
「えっ?」
王族に直談判なんてよほどのことがない限りない。
「いわゆるパワハラだな。かなり酷い有様だったが、彼らは聖女には逆らえなかった。…卑劣なことを」
それでハルト殿下が対応したと。
ハルト殿下が俯き、拳を握るのが見えた。
…ふーん、臣下へは一応、少しは、誠実なのね。
そういえば、今日のパーティーに出ていたのは王宮の役員が多かったなぁ…他にいた貴族もきっとこの件の関係者だ。
「アリサ様に関することは理解しました。事情が事情ですから、知らなかったとはいえ私もお役にたててよかったです」
「ありがとう…本当に」
「ただ、なんでそのことを秘密に?」
「それは…計画の前にアリサと関わりを持つ可能性を少しでも減らすためだ。さっきのパーティーでアリサが初対面のはずのマリーに対して暴言を吐いていただろう?」
「ええ…少し驚かされましたわ」
さっきのアリサ様の逆ギレを思い出して苦笑する。
「その時のアリサの言葉で『原作と違うことばっかするから』と言う発言があっただろう?原作というのが何かはわからないが」
「なぜ会ったこともない私の行動を知っているか、ですか?」
「そうだ。それに、マリー嬢に対して敵意を持っていた」
「ちなみに、理由は分かっているのですか?」
「いや、わからない…俺が関係しているのかと思ったが、そもそもマリー嬢のことは話したことがないしな。これからアリサを辺境の塔に軟禁することになったから精神が安定したら原因を調べる」
なにそれ、気味が悪い…。
ストーカーでもされてたのかな…?
まぁでも、軟禁されるなら安全だろう。
「婚約破棄もアリサがマリー嬢を嫌っている原因に俺が関わっていると考えられたからだ…どんな理由であれ、勝手な真似をして本当に申し訳ない!!」
イスに座ったままではあるが、ハルト殿下がガバッと頭を下げた
「は、ハルト殿下!頭をお上げください!」
王族が自ら頭を下げるなんてとんでもない。逆に私の立場がない。
というか、
「私、そもそも殿下と婚約してませんわ!!」
「え?」
「…え?」
ポカーンと顔を見合わせる。
「あの、で、ですから、ハルト殿下と私は元から婚約しておりません」
「いや、たしかに婚約していたはずなんだが…」
「いえ、そんなはずは…そもそも、婚約の披露宴も顔合わせもしていないでしょう?」
「私はマリー嬢は披露宴も顔合わせも避けて、婚約のみがいいとマリー嬢の父上から聞いていたのだが…」
「え?」
全く身に覚えがない。お父様なに言ってんの!?
というかそもそもそれ婚約する人の希望じゃないよね!?
2人して混乱しまくっていると、
「はいはい、お2人とも一度落ち着いてください」
イアンが私たちを諭した。
「どこかで食い違いがあるようなので、それは後々調査しましょう」
「ああ、よろしく頼む…」
心なしか殿下がぐったりしている。多分殿下から見た私もぐったりしているだろう。
「そろそろ夜も更けてまいりましたし、マリー様の迎えの馬車ももうすぐ来ます。今日のところはお休みになってください」
「ええ、わかったわ」
「では馬車の来るところまでお見送りしますね。ハルト様、失礼します」
とりあえず、家帰って寝よ…。
もう今日疲れた。