私、めんどうなのはごめんです。3
「この国は、この世界は、あたしが主人公なはずなのに!」
はい?
周りの人たちもポカーンとしている。
自分が世界の主人公とか、本当に言う人いるんだ。
「あの、聖女様…?」
「なんで悪役令嬢マリーがいじめてこないの!ハルトルートが開かないじゃんっ!」
今日初めて話した相手に、しかも公爵令嬢に呼び捨てで、しかも悪役って。
そう思ったが、聞いたこともないはずのその言葉にふいに違和感がよぎった。
悪役令嬢マリー。
ルート。
なにかが引っかかる。
私、もしかしてなにかを忘れている…?
ううん、そんなはずない。勘違いね、きっと。
「アリサ、つまり…マリー公爵令嬢はアリサをいじめていなかったのか?」
「思えばずっとおかしかったのよ、誰のルートも思うように開かないし進まない!あんたが原作と違うことばっかりするから!そう、そうだわ!私の思い通りにいかないのは全部あんたのせいなのよ、マリー!」
聖女様はハルト殿下の問いかけにも答えず、私によくわからない悪態をついてくる。
混乱していてどうしていいか分からないで固まっていると、ハルト殿下がゆっくりと一歩前に踏み出し、私に背を向けるようにして聖女様に向き合った。
それが合図だったかのようにパーティー会場がスッと静まりかえる。
聖女様がビクリと震え、顔を強張らせるのが見えた。
後ろ姿だけでもハルト殿下の威圧感が身を刺すほどに伝わる。
「…王太子である俺を欺き、そして問いかけを無視した。これがどういうことか分かっているな?聖女アリサ」
「…なにか、問題でも?あたしは聖女よ!?国を救う者よ!?なのに王太子如きがそんな口を…」
「黙れ」
つっかえながらも言い返そうとした聖女様を、ハルト殿下が一言で抑える。
「国を救う?笑わせる。これまでお前が国のために貢献したことがあったか?民を救うことがあったか?」
一体どういうことなんだろう。
てか、ハルト殿下の豹変っぷりすごいなぁ…。
たしかに聖女様の行動はこの短時間だけでも目に余るものばかりだった。
それでも私はハルト殿下は聖女様の味方をすると思っていた。
婚約破棄の時にもパーティーの間も隣にいたのは聖女様だった。
さっきも人の目の前でイチャイチャしてたし。
だからてっきり、ハルト殿下は聖女様をお慕いしているものだと…。
それなのにこうして二人は対峙している…というより、完全に聖女様が押されている。
「公爵令嬢であるマリーと王太子であるこの俺を愚弄するとは!
聖女アリサ、お前を聖女の座から下ろし捕らえる。おい、連れて行け!」
「えっ?っいやぁ!離してよ!!」
ハルト殿下が言い終わるやいなや、用意していたかのように騎士達が現れて聖女様があっという間に捕らえられ、扉のほうへ引きずられていく。
「悪役令嬢マリー!全部全部、あんたのせいなんだからね!このままで終わると思わないことね!!」
あまりの急展開に呆然としている私に向かって聖女様がそう叫ぶ。
いや、もうアリサ様、と呼ぶべきなのだろう。
私は連れていかれるアリサ様をただ眺めるしかできなかった。