私、めんどうなのはごめんです。2
「ハルトぉー、私怖いの!助けて!」
聖女様が上目遣いで殿下の腕にしがみつく。たいそう庇護欲をそそることだろう。
「気づいてやれなくてごめんなアリサ。おいお前、どうなんだ!さっさと答えろ!アリサが怖がっているだろう!」
目の前でイチャつかないでほしい。しかも聖女様の、あの勝ち誇った笑顔。
一発殴ってやりたい。
「そのような事実はございませんわ、殿下。聖女様を虐めるどころか、聖女様のお名前も存じておりませんでしたし、お会いしたことすらありません」
流石に聖女を殴るわけにはいかないので、あくまでも無表情に平静を保つ。これでも一応公爵令嬢なので、このくらいは朝飯前だ。
「聖女様のご意見を疑うようで申し訳ないのですが、私が聖女様を虐めたというか証拠はあるのですか?」
「マリーさん、あんたの取り巻きにやられたのよ!あたしのことを階段から突き落とされたり、本を破られたり!サイテーよ!」
へぇー、そうなんだぁ。思わず笑いがこみ上げそうになるのをなんとか抑える。
「なるほど…。ではお聞きしますが、その本はどこに?階段から落とされたとおっしゃいましたが、お怪我はないのですか?私の取り巻きだという人はどなたですか?私の取り巻きだと思った理由はなんですか?」
「え?えと…」
私が一気にまくし立てた途端に聖女様が黙り込む。それと比例するように周りの人のざわめきが大きくなる。
よくもここまで証拠もない、すぐにバレるデタラメを大勢の前でペラペラと…。
どう言い返すのか考えていなかったようだ。
「どういうことなんだ、アリサ?虐められてたんじゃないのか?」
ついにハルト殿下も怪訝に思い始めたらしい。
「も、もちろんよ!聖女であるこのあたしが嘘なんてつくわけないじゃない!」
「それなら質問に答えないと、周りの者に説明がつかないぞ」
ハルト殿下が聖女様に返事を促す。
聖女様の最初の得意気な笑顔がみるみる崩れ、顔が青くなっていく。
正直滑稽だ。
「うるさいうるさいっ!!黙ってよっ!!なんで?なんで私の思い通りにならないの!?納得いかない!だって、あたし、あたしは…!」