金衛門帰還とめんどくさいやつらがやって来た
天正二年(1574年)六月
懐かしい名前の客人が現れた。
何でも揃えてみせる店の金衛門だ。
「義久様、お久しゅうございます」
金衛門は頭を下げた。
「久しいな、今回は偉く時間がかかったな」
金衛門には燃える水こと石油と燃える石の石炭を探しにいってもらっていた。
「なにぶん、物が分からなかったのと中々、出てこなかったからからにございます...しかし、やっと見つけここに揃えましてございます!」
そう言うと庭に六樽分の石油と石炭を持ってきた。
「よう長く探してくれた!礼は弾むぞ!」
「はい。毎度ありがとうございます」
そう言うと頭を下げた。
「ところで金衛門、相談があるのだが、いいか?」
「何でございましょう?出来るだけ何でも揃えて見せますよ」
と言ってみせた。
「いや、物を頼みたいのではない。我が尼子家の御用商人になってはくれないか?」
そう言うと金衛門は驚いた。少し悩んだようだが
「分かりました。受けさせていただきます」
と頭を下げた。
「こちらこそ恃むぞ!金衛門」
「はい。よろしくお願い致します」
こうして金衛門が御用商人へとなった。
俺は主に石炭を頼み金衛門はすぐに用意してくれた。
天正二年(1574年)七月
いつかは来ると思っていたが思ったよりも早く来た。
ルイス・フロイスとロレンソ了斎と名乗るものが会いたいとやって来た。俺は悩み三日後に会うことを約束した。
その間、久兼と久秀を呼び出した。
「義久殿、わしは家臣にはならないと言ったろう」
そう言いながらも久秀は来てくれた。
「殿、何事ですか?」
久兼も一緒だ。
「面倒な奴等がやって来た。バテレンだ」
それを言うと二人とも頭を抱えた。
「恐らく、布教と保護を求めてだろうな。信長は保護をして教会まで立ち上げたからな」
久秀はこれまでの様子を説明してくれた。
やけに詳しいなと思ったら甥っ子がキリスト教に、入信してしまったそうだ。久秀は止めたが深く信仰しきってるそうだ。
「その二人は信者から絶大な人気を得ている。殺しては反乱が起きるぞ」
久秀は俺が考えていたことを言い当てた。
「...久秀殿、なぜ分かったのですか?」
久秀はニヤリと笑い
「言うたであろう。そなたと儂は似ていると」
久秀はしてやったりとした顔をしていた。
「それで、如何しますか?」
久兼は聞いてきた。
「会うと言った以上会うしかない。しかし、保護は絶対にしないつもりだ。九州のことを問いただして決めるとしよう」
この後もどうするか三人で話し合った。
三日後
二条城にルイス・フロイスとロレンソ了斎がやって来た。
「お初にお目にかかります。此度は謁見を叶えていただきありがとうございます。私はロレンソ了斎と申します。隣にいるのがルイス・フロイス殿にございます」
ロレンソ了斎が言ってきて頭を下げた。
「待たせて悪かった。中々、都合がつかなくてな」
俺は引き延ばしたことを詫びた。
「それでその方らは何の用で来たのか?」
俺が聞くとフロイスが話した。
「布教ノ許可ト保護ヲ御願イシタクマイリマシタ」
「断る」
一言そう言うと二人は驚いた。
「ドウシテデスカ?」
フロイスは必死に聞いてくる。
「九州でのこと、知らんとは言わせんぞ」
「何のことですか?」
ロレンソ了斎は知らないようなので話してやった。
「九州の大友の領地では南蛮人と宣教師達によって今も多くの日ノ本の民が奴隷として連れ去られている。帝の勅命に逆らってだ!」
ロレンソ了斎とフロイスは驚いていた。どうやら知らなかったようだ。
「お、お待ち下さい!それはまことなのですか!」
ロレンソ了斎は慌てた。今まで布教を行って来たがそんなことは露も知らなかった。
「本当だ。大友はキリスト教の教えに反発した者を奴隷として南蛮人に売り渡している。それを宣教師のカブラルとか言う者が主導してだそうだ!」
「ソンナ...」
フロイスは崩れ落ちていた。
「お主達二人のことは私の耳にも届いている。純粋に布教をしており、信者からも慕われているとな」
俺は久秀から聞いた情報を軽く話した。
「布教する事は認めても構わない。他の宗教も自由に布教を行っているのでな。ただ、保護は九州での問題が解決しない限りは行うことはない。それどころかキリスト教徒の追放すら考えてる」
その事に二人の顔は青くなっていた。
「御願イガアリマス。調ベル時間ヲ下サイ」
フロイスは頭を地に伏して頼んだ。日本の布教責任者がそんなことをしているとは思えなかった。いや、思いたくなかった。
「構わんぞ。布教は自由にしてもいいが保護はしないぞ」
「ワカリマシタ」
こうして二人との面会は終わった。
「すぐに確認しなければ...」
ロレンソ了斎は追放されるかもと慌てていた。
「マサカ知ラナイ所デソンナコトニナッテルナンテ...調ベテ報告シナケレバ信者ガ離レテシマウ」
フロイスもこの事態を重く受け止めて、調べて本部に報告しようと考えていた。
天正二年(1574年)八月
京に来て四ヶ月が経った。捕虜だった最後の一人、池田恒興を織田領の近江まで送った。引き取りに丹羽長秀が待っていたそうだ。貸し出していた車椅子はあげることにした。しかし最早戦場で会うことはないだろう。
この四ヶ月で色々な情報が入ってきた。
伊賀の領地を得た二人は流民と元伊賀の忍達が戻ってきて、開発を進め始めたそうだ。
大和を与えた左近と高虎はそれぞれ貸した兵士を使い道や田畑の整備や反乱する者の鎮圧を行っている。
特に左近の方は元筒井家臣だったこともあり反発は多いらしい。しかし元領地なだけに鎮圧も早かった。民からは慕われているようだ。
若狭一国と丹波を手に入れた具教は越前と近江国境の守りを固め始め、領地内の道を整備していた。軍を動きやすくし商人達の為に宿を作ったりしていた。
和泉一国を得た久経は人材集めに奔走していた。元々鉢屋衆の若手が主な家臣だったのでそんなにいる訳ではなかった。
播磨一国の常光は、居城を姫路城と定め賦役を課して城を山吹城のようにするようだ。
賦役には飯付き、給料付きでかなり人気ですぐに数万の民や流民が集まった。それだけ人が集まれば商人も集まったりある種の町が出来るようだと報告が来た。
「みんな順調だな。京も早く守りやすくしないとな...」
俺はどんな風にしたら守れるか悩んでいた。
今のままだと二条城に在住する一万しか即時対応出来ないからだ。
「周囲を城で囲むか...」
俺は大文字山周辺と瓜生山、向山に、城を築くことにした。これは坂本城と大津城に対抗する為だ。それぞれ山吹城のような堅城にする為多くの人材と金を、費やすことになった。
また、京を、警備する為の組織を新たに作った。京都所司代と言う信長が作った組織を更に大きくしたものだ。この人選は俺自ら行い、総勢五千人の組織とした。
名前を警ら隊とし、京の各地に拠点を作り本部を二条城とした。
現代の警察そのままだ。これは京の民に認められて治安は良くなり強盗などは無くなった。お陰で商人も増えて活気溢れるようになった。
役名は京都所司代のままにし山崎吉家に任せた。
信長のお陰で少なくはなってはいたが孤児や流民がいた。流民は各地に送り兵士や農民とし、孤児は寺子屋のようなものを作り、読み書き算盤を教えた。食事も寝床もあり好評だった。
無償でやっているが狙いは優秀な者は家臣として召し抱え、それ以外の者も、その者に合った働き口を与えていった。後に寺子屋の評判や目的が家臣達にも流れ、各地で造られるようになった。伊賀や久経の所では忍も増えていくことになった。なんでも、幼い頃から忠誠を誓わせることができるので凄く効率がいいと絶賛してきた。
「もうじきしたら一旦出雲に帰るか」
俺は来月帰還することを京にいる者に伝えた。と言っても殆どの者が既に各地に戻っているのでそんなにはいない。手持ちの二万五千の兵士だけだ。
俺は京守護の為に秀久を残すことにした。
数日後
二条城に、鉢屋久経、鉢屋弥之三郎、望月兵太夫、百地正永、百地正高、藤林正保が集まった。忍衆と鉢屋衆の今後について話し合う為だ。
「さて、集まってもらったのは前に弥之三郎から提案されたことについてだ」
兵太夫や正高も正保達に聞いていたようだ。
「それで、今の人数を言ってくれ」
「はい。鉢屋衆、約二百名にございます」
「忍衆、約三百五十名にございます」
忍衆は全員で五百名、鉢屋衆は三百人だったが織田と戦でかなりの数を失った。
「それで、忍衆と鉢屋衆をまとめることについてだが意見はあるか?」
「ございません」
全員が一つにすることを了承した。
「それで提案なんだが組織は忍衆を主体とし、鉢屋衆は暗殺専門の一部隊にしたいと思うのだがどうか?」
忍衆は諜報部隊と暗殺部隊、護衛部隊の三つで構成されていた。それぞれ、諜報部隊総括藤林正保、護衛部隊統括、百地正永、暗殺部隊統括望月兵太夫としていた。まぁ、暗殺部隊は普段は倫久の護衛をしている。
それを今回、忍衆を諜報部隊と護衛、暗殺部隊に分けると言うものだ。
「それでは頭領と副頭領はどうしますか?」
正高は一番の問題を言ってきた。
「それをどうするか考えてほしいのだが...」
「殿、一つお願いがございます」
兵太夫が姿勢を正して言ってきた。
「なんだ?改まって?」
「頭領、副頭領ですが望月、百地、藤林、鉢屋の持ち回りにして頂きたくお願い致します」
それを聞いた正永、正保、弥之三郎も同じように頭を下げた。
「我らからもお願い致します」
こうしてそれぞれの頭領が頭を下げたので俺は認めることにした。
「認めるのはいいがどうやって決める」
「今回頭領は私と正保にして頂きたく存じます」
兵太夫と正保は頭を下げる。
「二人はそれでいいのか?」
俺は正永と弥之三郎に確認したがいいと言ったので認めた
「では今回、頭領は兵太夫、副頭領を正保とし、次期頭領は久経、副頭領を正高とするがよいか?」
「ははぁ!」
こうして忍衆は新たな組織として変わった。
諜報部隊は正保と正永が担当し、護衛暗殺部隊は兵太夫と久経が担当することになった。
護衛、暗殺部隊の名は鉢屋衆とした。これには弥之三郎が嬉しいあまり泣いていた。