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信忠の決断

天正二年(1574年)四月

京、二条城

今ここに集まった者達は暗い雰囲気に包まれていた。


丹羽長秀、羽柴秀吉、佐久間信盛、明智光秀、細川藤孝、村井貞勝、織田信忠

他の者は松永と対峙している。


「まさか、信長様が生きておられて、捕まっていたとは..」


「貞勝殿、他にも多く捕まっておるのだぞ」

「しかし、父上達を生かしている理由はなんなのだ?」


信忠は父親のこともだが共に育った森長可や他の者についても気になっていた。


「我らが押さえた領地を狙ってるだけではないでしょうか?」

信盛は領地を得るだけと思っていた。


「それなら、二人を返すだけで目的は達しているはずです」

長秀は義久が何を考えているか分からなかった。


「そもそも、本当に返すつもりがあるのでしょうか?」

光秀は違う考えをしていた。


「光秀、どういうことだ?」

信忠達には分からなかった。

「いえ、私ならと考えたのですが勝ったとはいえ、再度同じような戦をするようなことは避けますし後で問題にならないように首を刎ねます。信長様の首なら堺や石山本願寺だけではなく武田や上杉なども喜びます。私なら、生かして返すことはあり得ません」

そう言うと皆考えだした。


確かに敵と考えたら絶対に返さないと皆思った。

「私達は試されているのかもな」

信忠は考えてみた。


「試すですか?」

「そうだ。父上の命に対して何を差し出すのか見てみたいと思ったのでは?」

信忠は自分の考えを言ってみた。


「では、元々どんな条件でも信長様を返す気はないと?」

藤孝は聞くと信忠は頷いた。


「若、朝廷に頼みましょう。さすれば返して...」

「いや、それならどこかで始末されるのが目に見えている。無理だ」

貞勝の提案を信忠は無理と思った。自分でも朝廷を動かされたら絶対にどこかで始末をすると思ったからである。


「皆、父上を生かして連れ戻す方法はないか?」

皆考えるが誰も方法を思い付かなかった...。一人除いて。


秀吉は思い付いたが決して言えることではなかった。

秀吉の表情の変化を見逃す信忠ではなかった。


「秀吉、なにか思い付いたな...」

信忠の言葉にその場にいた全員が秀吉を見る。


秀吉はどうしようか悩んだ末白状した。


「信忠様、連れ戻す方法ではないのですが生かす方法は思い付きました...。ただ、信長様は絶対に納得されないかと...」


その事に落胆する者が多いなか信忠は自分は生かす方法さえ思い付かなかったのに考え付いた。

秀吉の考えを聞いてみたいと思った。


「構わんから答えよ」

「はい。朝廷に停戦を御願いし、その人質として信長様を尼子に預けるのです。その間殺されないように年数回、会うことを認めて貰います。それは全て朝廷の立ち会いの元で行います。停戦は長い期間の方が少しでも信長様を生かすことになるでしょう。その停戦の間に信長様を取り戻す方法を考えるべきかと思います」


秀吉はそう言って頭を下げる。思い付いた内の一つを答えた。


「猿!貴様!信長様を人質とは何を考えてるのか!!」

怒声あげたのは信盛だった。


「黙れ信盛!怒鳴るなら、秀吉以上の考えを述べよ!」

信忠は怒鳴り怒った。


信盛は驚き黙ってしまった。

信忠は秀吉の言ったことにも内心怒ったが、自分は父上を利用することで生かす方法など思い付かなかったので複雑な感情だった。


「村井、出来ると思うか?」

「朝廷を動かすことは出来ますが、尼子が納得するかどうか...。それに他の者もおりますし...」


人質は信長だけではないのでより難しくなった。


「織田信雄、佐々成政、池田恒興、森長可は帰して貰いたいな。具房は残しても殺されはしないだろう。父親がおることだし」

信忠は具房を切り捨てた。


「しかし、返して貰うにも方法がございません」

長秀は領地で解決するにしては多すぎると考えた。


秀吉は何か言おうか言うまいか口をパクパク動かしていた。


「秀吉、あるなら言え」

信忠の言葉で秀吉は言うことにした。


「先程の続きになるのですが領地と一人人質を出して全員取り戻せないかと思いまして...」

秀吉は物凄く言い辛そうにしていた。


「秀吉殿、一人とは誰のことなのか?」

藤孝が聞いても答えようとせず、信忠が命令してやっと答えた。


「信長様の正室、帰蝶様(濃姫)です!」

秀吉は信忠に伏して頭を下げていた。


「義母上だと!!」

信忠は流石に怒鳴った!

信忠の実の母ではないが幼き頃から共におり、実の母のように慕っていた。


「濃姫様とは何を考えられてるのですか!」

幼き日の帰蝶を知ってる光秀も怒鳴っていた。

秀吉は怯えながらも


「信長様と帰蝶様を人質に差し出せば尼子もこちらが裏切るとは思いません。それに帰蝶様は信忠様の義母になります。そんな人物を差し出すと言うことは尼子にとっても大きな楔になります。もし、二人を殺しては悪名を負うことになり、民は付いては来なくなります。民を大事にしている尼子はそれを嫌うはずです」

と秀吉は考えてることと思っていることを伝えた。


「なるほど、それは面白い考えじゃな...」

襖が開くとそこには濃姫がいた。


「義母上!」

「濃姫様!」

信忠と光秀はつい大声で言ってしまった。


「猿、その策、生かすだけのものでしょう?本当に連れ戻す方法は無いのですか?」

帰蝶は秀吉がまだ隠していることを分かっていた。


秀吉は伏せたまま、

「....ありますが、言えませぬ...」

その事に全員が驚いた。


「猿!あるならなぜ言わん!」

「そうだぞ!あるならなぜその考えを言わぬのだ!!」

長秀はつい猿と言ってしまうぐらい怒り、信忠も同様に怒っていた。


「二人とも黙りなさい!」

帰蝶が二人を黙らせた。

長秀は我に返り黙った。信忠は何も言えなかった。


「猿、屈辱的なことでも考えは考え...言いなさい」

帰蝶は威圧した。普段しないことにこの場にいる全員が驚いた。


「お、恐れながら、従属すれば取り戻せるかもしれません...。しかし、人質として信忠様を差し出さなければならないと思います」


これには全員が怒った。従属など選べる訳もなく、ましてや信長を取り戻す為に信忠を差し出せば元も子もないからだ。


「猿、それは受け入れられないぞ!」

信忠は激怒していたが濃姫に怒られて静かになった。


「猿、確かにそれだと取り戻せるかもしれないけど無理ね。私が行っている間に考えなさい」

帰蝶は秀吉の一つ目の案に乗ることを言った。


「義母上、何を考えられてるのですか!」

「そうですよ帰蝶様!わざわざ行かれるなど!」

信忠と光秀は反対したが、濃姫は譲らなかった。


「信忠、もし私達が邪魔になれば切り捨てて織田家を優先しなさい。村井、任せましたよ」

そういって濃姫は出ていった。


「信忠様...」

長秀が声をかけた。信忠は涙目になっていたが腕で顔を拭き、


「貞勝、朝廷に御願いをして今のことを進めてくれ」

「期間と領地は如何しますか?」

貞勝は聞くと


「京、山城、紀伊、河内、和泉を差し出す代わりに十年の停戦だ」


「かしこまりました。朝廷と尼子に繋がりのある山科言継殿に掛け合ってみます」


「織田は十年で建て直し、武田を滅ぼして再度奪還を狙う」

信忠は決断をした。


「ははぁ!」

全員が一つの目標を掲げた。


信長の奪還を。





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