戦後処理
俺達は八木城に入っている。
織田軍は丹波を捨てて京に入ったようだ
今回の戦は怪我人が多く戦後の首実験は後回しにした。
先に怪我人の手当てを優先したのでなんとか一命をとりとめた者もいるがそうでないものもいた。
多胡重盛...七老中であり、現多胡家当主。鉄砲により重症をおっていたがついに亡くなった。
俺は最後を看取ることは出来なかった。
一刻後今回の被害状況が分かってきた。
尼子、波多野、毛利軍、総勢十五万一千
死者 約三万
重軽傷者 約四万
討死、多胡重盛、荒木氏綱、
重症 北畠具教、鉢屋弥之三郎、赤井直正など
軽傷者が多かったので助かる者は多いらしい。
死者が一番多かったのは多胡重盛が率いた一万三千人だ。鉄砲で殆どの者が動けなくなり、そこを織田の精鋭である柴田に襲われたそうだ。
夜、首実検を行った。
まず右翼の者から持ってきた。
柴田勝家、佐久間盛政
左翼はかなりの数だった。
滝川一益、河尻秀隆、伊藤長弘、仙石秀久、宮部継潤、竹中半兵衛など秀吉の配下の武将が揃っていた。
しかも一益以外は狙撃隊が撃ち抜いた者だった。善住坊達三人は物凄い満足していた。
中央は金森長近、不破光治だった。
元春と元相は楽勝過ぎて暇だったと言っていた。
捕虜は北畠具房、織田信雄、佐々成政、池田恒興、森長可、そして織田信長だった。
「殿、なぜ信長を捕らえるように命令したのですか?」
久兼は聞いてくる。
「分からん。なぜか捕らえろと言ってしまった」
その言葉に笑う者、頭を抱える者、驚く者と別れた。
捕らえた高虎は驚く者だった。
ちなみに笑っていたのは元春だ。
「まぁ、使い道はあるかはこれからだな」
と言うと頭を抱えた久兼は疲れきっていた。
「さて、今日は疲れたであろう。皆休め」
そういって解散させた。
俺はその後具教が寝ている部屋と弥之三郎が寝ている部屋に向かった。
具教はまだ意識を失ったままで弥之三郎は腕は繋がっているが最早動かすことが出来なかった。
具教の部屋に行くと三人の男が座っていた。
大橋長時、松田之信、上杉頼義の三人だった。
「具教の様子は?」
俺が聞くと驚いていた。
「義久様、こんな時間にどうされたのですか!」
長時が聞いてきた。
「具教の意識が戻らぬと聞いてな。様子を見に来た」
「そうですか...義久様、殿が目覚められぬ場合、殿の領地はどうなるのですか?」
「そんなの決まっておろう」
「取られるのですか!」
長時がそう言うと後ろの二人も動こうとしていた。
「馬鹿を言え。引き継ぐ者がいなければそうするが二人もおるではないか!」
二人とは徳松丸と亀松丸だ。
「そうですか...それならよかった...」
「それまではお主らが管理せよ。ただし問題があれば取り上げて二人が成人するまで預かる」
「ははぁ!」三人は頭を下げた。
次に弥之三郎の元に行った。
部屋の近くになると久経の声が聞こえた。
「父上、無理です!そんな急に!」
「殿にはわしから話す」
「しかし!」
近くにいくほど二人の話が聞こえてきた。
「殿、入られて問題ないですよ」
弥之三郎は俺がいることをとうに気がついていた。
俺が部屋に入ると久経は驚いていた。
「それで何の話をしていたのか?」
俺が聞くと
「殿、御願いがございます」
弥之三郎は頭を下げて言っていた。
「なんだ?」
「鉢屋衆を忍衆と統合して頂きたいのです」
「なんだと?」
俺は驚いた。今まで鉢屋衆と忍衆は同じことをするが別組織としていたからだ。これは今まで尽くしてくれた鉢屋衆に対しての優遇処置だった。弥之三郎が言うのはそれを無くしてくれと言っているのだ。
「此度の戦で忍衆と鉢屋衆共に多くの者が亡くなりこれ以上鉢屋衆単体では任を果たすのは無理だと判断したからにございます」
今回の戦で鉢屋衆、忍衆合わせて三百人以上が犠牲になっていた。殆どが時間を稼ぐ為に..。
「それは鉢屋衆と忍衆の総意か?」
「兵太夫殿には話しておりませんが正保殿、正永殿とは合意しております」
「今度、兵太夫も含めて五人で話し合おう。それでよいか?」
「わかりました。それともう一つ御願いがございます」
「...やはり隠居か?」
「はい。最早この腕ではやれませんので。隠居し後を久経に任せます」
「弥之三郎、済まなかった。それと、助かった」
俺は頭を下げた。
「いえ、最後に殿の為に働けましたので本望です」
こうして弥之三郎は隠居することになった。
二日後
次々と報告が来た。
まず、摂津だが宇喜多直家と牛尾久信達によって掌握した。
摂津にいた織田軍は全員京に向かったそうだ。その中に牛尾幸清達三人の姿があったそうだ。
織田が撤退した後、丹波から逃れて来た者も皆京に送ったと報告が来た。
戦闘は殆んど無かった。
次に若狭制圧は倫久、秀久、中井久家の三人によってほぼ終わったそうだ。こちらに織田軍は来なかったと報告があった。
最後に久秀殿がやってくれた。
石山本願寺を囲んでいた佐久間信盛を顕如達と挟撃して撃破し、大和に残っていた筒井を攻め滅ぼして京都入り口で織田信忠軍と睨み合っているそうだ。顕如はこれには関与してないと報告が来た。
「久秀殿はどうやって二万もの兵を集めたんだ?」
当初報告では一万足らずとあったが今は二万を越える軍と報告が来ていた。
それから十日後、織田から使者が来ていた。
「お久しぶりにございます。この度は捕虜の返還と停戦について参りました」
来たのは丹羽長秀と細川藤孝だった。
今、広間には主な者は全て集まっていた。元春達毛利軍は帰っていたが波多野秀治はいた。
「それで内容は?」
俺が聞くと長秀が答えた。
「はい。若狭、紀伊、山城、京をお渡ししますので捕虜の返還と十年の停戦を御願いします」
「話にならん」
俺は一言そう言った。
「なにゆえにございますか?」
長秀と藤孝は分からなかった。
「長秀殿、捕虜は誰がおるか知っておるのか?」
「北畠具房と織田信雄様です」
やっぱり知らなかった。
「やはり知らないのだな...」
俺は溜め息をついた。知らないならこんな条件言ってくるかと思った。
「捕虜は北畠具房、織田信雄、佐々成政、池田恒興、森長可、それと織田信長だ」
それを聞いた二人はとんでもなく驚いていた。
「なんですって!信長様が生きておられるのですか!」
長秀はつい立ち上がってしまった。それに反応して何名かが刀を抜こうとした。
「それと、若狭は直に落ちるし京は今、久秀殿と睨み合いをしてるではないか?落とそうと思えば落とせるぞ。出直してこられよ」
そう言うと二人とも帰っていった。
「殿、信長を還すのですか?」
久兼が聞いてきた。
「流石に還すと思うか?二度と戦いたくないわ」
「では、なぜ再度交渉を求めたのですか?」
今度は久経が聞いてきた。
「信長の命に何を差し出すか気になったからだ」
俺は前回の過ちだけはしたくなかった。
「さて、それでは若狭を落として京に向かうか!久兼、常光、京に向かえる軍はどれくらいだ?」
「はい。倫久様と久信達と合流してからなら六万程度かと」
「しかし、怪我人も多く丹波で戦った者は今しばらく休養が必要です」
久兼と常光は説明してくれる。
「殿、論功行賞も行っておりませんので今出れば批判が多くなるかと..」
久家が兵士の様子を説明した。
「では、京に行くとしたらどれくらいかかる?」
「恐らく一ヶ月は掛かるかと...」
久兼が分析して言った。
「分かった。では、一月後準備ができたら行こう」
「ははぁ!」
こうして京へ上ることが決まった。