決戦にむけて 弐
織田軍
織田信長
上杉、武田とは朝廷を使い停戦したが石山本願寺は時間を稼いでいる。いや、実際には拒否しているようなものだ。
関白を二条から近衛前久に変えろと言ってきている。関白の二条が飲む訳がない。
「それでも、これだけの兵は集まったか...」
信長は、眼前に広がる陣地と兵士を見る。
その数、十三万五千。
しかし、尼子はこれ以上の兵士を集めている。
報告では十五万に達するという。
信忠や佐久間等も呼べば十五万に達するが石山本願寺の包囲と京を留守にする訳には行かない。
徳川を呼びたかったが無理だった。武田との戦が酷すぎた。
それでも、大筒や鉄砲を出来るだけ揃えた。
「貴様の情報を元に作り上げたが見事な陣地だな」
側にいた勝久に言った。
「これを義久は一人で思いつき実践しています。なので、これを越えてくるものを考えてくるかもしれません」
勝久は今まで側で見てきたので、久経と同じくらい義久のことを理解しているつもりだった。
「もしも知らなければ我らの敗けは確実だったな...」
信長は知らなければ全滅は免れないと思った。
「殿、皆様集まりました」
蘭丸が知らせに来た。
「分かった、直ぐに行く」
信長が行くと来ていない村井と佐久間を除く主な武将は全員来ていた。
柴田勝家、丹羽長秀、明智光秀、滝川一益、羽柴秀吉、細川藤孝、河尻秀隆、池田恒興、金森長近、織田信雄、北畠具房
他にも森長可、尼子勝久、竹中半兵衛、佐々成政、前田利家、不破光治、等もいた。
「全員いるな?」
「大殿、全員揃っております」
筆頭家老の勝家が答える。
「それでは評定を始める。長秀説明せい」
「はっ、それでは敵は尼子、毛利、波多野、あわせて十五万の軍になります」
それのことを知らなかった者は驚いた。
「我らは十三万、数的には不利にございます。また、鉄砲の数もこちらは四千に対して一万以上揃えておるとのこと。しかも、我々が持っている鉄砲を改良して威力、距離と上がっているとのことです」
長秀は勝久を見た。
「大筒は少なくとも千はあると思います。私がいた頃には八百を越えてましたので既にいっていると思います。それも全て改良された物です」
その事を聞いていた信長と長秀以外は驚いていた。
「それでは我らに勝てる見込みが少ないではないか!」
一益はつい立ち上がってしまった。
「我らの持つ大筒は南蛮から仕入れた四十のみ...信長様はどのようなお考えで?」
秀隆の問いに全員が固唾をのむ。
「此度の戦、尼子との決戦と致す。我らは今作り上げた陣地を利用し敵を誘き寄せ裏から奇襲を行う」
「桶狭間を再現するということですか...」
秀吉が言うと信長は頷き、
「この奇襲部隊は俺自ら率いる」
それを聞いた全員が驚いた。長秀も打ち合わせはしていたが初耳だった。
「大殿!それはなりません!」
「そうですよ!敵は忍びの数も尋常じゃない、奇襲が一番危険です!」
「父上、なぜそんな無茶をされるのですか!」
「奇襲は我らに任せて殿はここで指揮を取られてください!」
「静まれ!!」
信長は本気で威圧していた。
それには誰も言えなくなった。
「此度の戦は織田の全てを賭けた戦、俺自身が動かなくてどうする?」
「し、しかし、奇襲部隊を指揮するのはどうかと...」
長秀は恐る恐る伝えた。
「俺が死んでも信忠がいる。仮に負けた場合は京を捨て近江まで引き、防備を固めろ。その後は残ったものの判断に任す」
「それで、奇襲部隊は誰を連れていかれるのですか?」
藤孝の発言で場が静かになった。
「俺の軍の三万を三つに分ける。勝久、恒興、成政、光治、長近、長可、お前達には来てもらう。」
「ははぁ!!」
「本陣は長秀に任す。俺の旗も置いておく」
陣分けをする。
中央、丹羽長秀、明智光秀、細川藤孝
計三万
右翼、滝川一益、河尻秀隆、羽柴秀吉
計三万五千
左翼、柴田勝家、北畠具房、織田信雄
計四万
奇襲部隊 俺(信長)、池田恒興、佐々成政、金森長近、尼子勝久、不破光治
計三万
勢十三万五千
となった。
「先陣は勝家!お主に任せる。かかれ柴田の力見せつけてこい。敵と交戦したら大筒の範囲まで引け、そこで大筒を打ち込んだ後突撃し敵を叩け」
「御意!」
「他の者はそれぞれ守れ、敵が引いたりした時は攻めて構わん」
「決戦は二日後とする!よいな!」
「ははぁ!!」
「これで、我が命運は決まった。この一戦に、全てがかかっている。何としても撃ち破る」
信長は一人、呟くのであった。
その頃、尼子側も評定を行っていた。
「明日には陣地が完成し、明後日には砲撃を開始できます」
秀清は報告した。
「皆、聞いていたな...決戦は二日後発射が可能になったら始める」
「はっ!」
「また、先陣は中央の砲撃を合図に行え」
「御意!」
重盛達が返事をする。
「殿、敵が攻めてきた時は如何しますか?」
具教が聞いてきた。
「その時はその陣営の大将が指示をせよ。勿論、来た相手は全員殺れ」
「ははぁ!」
「皆聞け!此度の戦は全てを賭けたものだ。負ければ全てが終わる」
そう言うと皆は黙って続きを待っていた。
「しかし、この戦は全ての始まりでもある。この戦の勝利を天下泰平への一歩とする。ここでつまずいては話にならない。夢物語に、終わってしまう。私は誰もが笑って暮らせる世を造りたい。その為にこの日の本を統べるつもりだ。皆その夢のため力を貸してくれ」
「おぉぉぉ!!」
士気は高まった。後は全てを出し尽くして勝つまでだ!
俺はそう言い聞かせ、後ろで掲げている天下泰平と書いた旗を見た。