荒木村重謀反
天正元年(1573年)七月
姫路城
「まさか、政職様が裏切りなんて...」
職隆は城の一室で一人だった。
職隆は政職の命で孫の松寿丸を織田に人質に出していた。
その為、裏切るなど出来る訳がなかった。
「孝高がおれば止められたかの...」
この場にいない孝高のことを考えていた。
政職の命で荒木村重の元へ行ったきりまだ帰ってこない。
「職隆様!尼子兵がこちらに向かってきています!」
伝令がやって来て報告する。
「城内の兵の数は?」
「ご、五百名です」
戦にならんな...。
「城内に女子供あわせたら何人だ?」
「およそ、千人に満たないかと」
そうか、このままでは滅ぼされるだけだな。
「職隆様!」
次の伝令が来た。
「た、民達が共に戦うと集まっております!」
「なんだと!!」
その知らせを聞いてすぐに民が集まっている所に向かった。
「お前達何しに来てるのか!」
職隆は民達に叫んだ。
「何って、戦う為に集まっただ!」
「職隆様と孝高様にはいつも助けてもらってるから今度はおら達が助ける番だ!」
そうだそうだと民達が言っている。
「お前ら相手は二万の軍勢だ。ここにいても殺されるだけだ、早く帰れ!」
職隆は内心嬉しかった。こんなにも民達が小寺家を慕ってくれていたことを。それと同時に決して殺させてはならないと思った。
しかし、そんな時間は残されてなかった。
「報告します!尼子軍が城から一里先に布陣しました」
「皆、早く逃げなさい!尼子は民は殺さないと聞いている!お前達は逃がしてもらえる」
職隆は必至に説得するが誰一人逃げ出す者は居なかった。
一方尼子軍
秋上久家は城の様子を聞いて悩んでいた。このままでは無駄に殺してしまうし、小寺職隆は民に慕われていると言うことを聞いたからだ。
「何とかして降伏させたいな...」
久家は僅かな可能性に賭けることにした。
軍議が開かれると皆、さっさと攻めて終わらそうと言う。しかし、久家は降伏する使者を出したいと言った。しかも自ら向かうと。
これには周りから反対された。
しかし、ここまで民に好かれている者を殺すには惜しいと言い、なんとか説得する。
そんな中、義久から指示が届いた。
「殿はなんと?」
書状を読んだ重盛は皆に見せて言った。
「小寺職隆達、姫路城に居る者は全員許すとある。理由に小寺政職の命で氏職の代わりに人質を織田に出しているから裏切れる訳がない。望むなら織田領まで送り届けよ、とのことだ」
これに久家は喜んだ。
そして自ら書状を持って説得すると言い、重盛は根気負けし、許すことにした。
姫路城
小寺職隆は使者として来た久家と会っていた。
「書状にありますように、織田領地まで送りますのでどうか降伏をお願いします」
職隆は悩んでいた。このままでは城内にいる民達が殺されてしまうが、書状通り降伏し織田領まで送られると孫の松寿丸が殺されるのではと思っていた。
「しばし考える時間を下さい...」
「分かりました。二刻ほどですが待ちましょう」
久家はそう言うと城を出た。
職隆は一族を集めて相談した。
しかし、話しは平行線のままだった。
時間が刻々と過ぎていくなか職隆は決断した。
「降伏し織田家へ行こう..このままでは我々を慕ってくれた民達が殺されてしまう。ここは賭けることにしよう」
そう言うと皆を納得させ使者を送り降伏した。
八月
職隆達は約束通り摂津の国境まで送られた。
職隆は一族を引き連れて荒木村重の所に向かったが様子が変だった。
村重のいる有岡城が兵士に囲まれていたからだ。
しかも旗印からして孝高の上司にあたる羽柴秀吉だった。
職隆は皆を連れて羽柴陣営に向かうと羽柴秀吉が会ってくれた。そこで衝撃の事実を知った。
荒木村重謀反と...。
職隆は孝高はどこなのか聞いた。
秀吉は最悪のことを言った。
「官兵衛は村重を説得すると言って二ヶ月前に城に入った後戻ってこん」
その言葉の後に衝撃の事実を言われた
「松寿丸だが、小寺政職が尼子に寝返ったこと、官兵衛が有岡城から戻らぬことを理由に信長様から殺すように命が下った」
その事実に職隆は崩れ落ちた。しかしすぐに秀吉に詰め寄った。
「松寿丸を殺すのですか!我々は最後まで尼子に抵抗したのにですか!孝高が貴方を裏切ることなど絶対にしないのにですか!!」
「信長様の命じゃ!!。儂にはどうすることもできん!松寿丸の件、半兵衛に任せた...」
職隆は周りの兵士に抑えられた。
「この陣営には官兵衛の部下もおる。皆に会うといい」
そう言うと秀吉は行ってしまった。
陣営内を案内されると衣笠景延と小河信章がいた。
「景延!信章!二人ともここに居たか!」
「大殿!皆様もご無事で!」
三人は再会を喜んだがつかの間だった。
「孝高について何か分からんのか!」
職隆は聞くと
「今、井上之房、栗山利安・母里友信が有岡城下に侵入して探ってます」
と景延が答えた。
三人が戻らねば何も分からなかった。
職隆は孝高の安否を気にするのだった。
一方その頃三人は
「こっちは駄目だ。兵士に紛れ込もうにも門番が確認している。見つかる可能性が高い」
母里友信は兵士に紛れて入ろうと考えていた。
「殿についてですが、城内に入った後誰も見ていないようです...恐らく...」
井上之房は既に亡き者にされている可能性も考えていた。
「いや、殿は絶対生きておられるはずじゃ!恐らく牢に閉じ込められているのだろう」
牢屋の場所は分かったが城内の一角らしく侵入できないでいた。
「なんとか城内に入らねば...」
利安は焦ったが時間だけが過ぎていった。
その頃
波多野家
「くそ、一色が裏切るとは!」
丹後の一色が織田側に寝返り福知山城を攻めてきた。
「尼子に援軍を頼むか...」
秀治は将軍を大友へ送る準備はしていたが織田が攻めてきたので送れていなかった。
「将軍はどうしますか?」
「無理やり大友へ送るしかないだろう」
この後秀治は説得しても動かない将軍を紐でくくり無理やり船に乗せ大友へ送った。それと同時に尼子に臣従することと、援軍の要請を送った。
天正元年(1573年)九月
姫路城の多胡重盛の元へ波多野から使者が来ていた。
従属と援軍要請だった。
「臣従致しますので何卒、援軍をお願い致します!」
使者はなんとしても援軍を貰いたかった。
「分かったが殿の指示を聞かねばならぬ。二ヶ月ほど待たれよ」
重盛はそう言うが使者にとってそんな時間は無かった。
「それでは丹波の半分は落ちてしまいます!何卒、すぐに援軍をお願いします!」
織田に対して全軍を集めていたので一色の福知山城には兵士がほとんど居なかった。
「重盛様、小寺を先発隊として福知山城に援軍を出されたらどうですか?」
久家は援軍を出すべきだと考えた。
「それなら時間が稼げるか...分かった。小寺を、すぐに向かわす」
「ありがとうございます」
使者はそのまま義久の元へ送られ、援軍として小寺政職が送られた。