周辺国の様子その二
安芸の国
毛利家
「とうとう、尼子と織田が戦を始めたようだな」
当主隆元は知らせを聞いて皆を集めて話を始めた。
「はい。ある意味やっと動き出したと言うべきかと」
隆景は内心尼子が織田との戦に参戦したことに、安堵していた。
「身内の反乱が原因で参戦とは笑わせる」
元春は尼子で反乱があったことに「ざまぁーみろ」と思っていた。
「しかしこれで、援軍を頼みやすくなりましたね」
福原は隠居していたが相談役として今回は呼ばれていた。
「幕府や石山本願寺も尼子の参戦に喜ぶのは間違いないでしょう」
安国寺恵瓊は外交を任されており、石山本願寺との連絡をしていた。
「いや、幕府は喜ぶだろうが、後で地獄を見るだろう」
隆元は尼子家が幕府を極端に嫌ってることをわかっていた。
「それで兄上、毛利はどうするんだ?」
元春は毛利がどう動くか気になった。
「毛利は既に反織田だ。石山本願寺には兵糧など運んでいる。村上水軍が海を制圧しているから問題はなかろう。小寺には恵瓊を通じて寝返りを勧めている。尼子次第だが、共に京に上ることも一つだと考えている。だが、あくまで毛利は領地の民の安寧を第一とする」
「同盟の浦上はどうしますか?どうも、裏切って織田側についたようですが」
隆景は浦上が裏切っていることを知っていた。世鬼衆が報告していたからだ。
「義久に伝えてやれ。喜んで備前に攻め込むであろう」
隆元は備前を尼子に取らせることで東側の守りにしようとしていた。
「大友はどうしますか?和議を結びましたが虎視眈々と長門を狙っております」
貞俊は大友についてどうするか訪ねた。
「ふん!攻めてくるなら叩き潰して逆に攻め込んでやるわ!」
元春は尼子と大友どちらも滅ぼしてやりたいと思っていた。
「もし大友が仕掛けてきたならば、反撃し、逆に九州に乗り込み筑前まで完全に毛利の物としよう。そこを長門を守る盾としよう」
「兄上その時は俺に行かせてくれよ」
元春は物凄くやる気になっていた。
「今回はこれで終わる。皆、準備だけはしておいてくれ」
「ははぁ!」
こうして毛利家の方針は決まった。
数日後
備前岡山城
「フフフ...やっと毛利を裏切り織田についたか...」
岡山城内の一室で男が一人笑っていた。
「これで、備前は我が物に出来る...私が仕掛けたとは誰も分かるまい...」
そこに一人の男がやって来た。
「殿、毛利から尼子に浦上が裏切ったと知らせが入ったようです」
「そうか、これで、備前を思いっきり攻め込めるな...それで、内通の状態はどうか?」
殿と呼ばれた男は聞いた。
「重臣、明石景親など多くの者がこちらに寝返っております」
「では、すぐにこちらにつけると言うのか...」
男は考え、
「ワシが指示したら反旗を翻すように伝えろ...その頃にはワシが向かっておろう...」
そう指示してまた一人になった。
「長く待たせてくれたな...前回のような失敗はせん...今度こそ備前を、我が手に...フフフ」
男の低い笑い声が聞こえるだけだった..
しかし男は気づいていなかった。この会話を聞いている者がいるとは...
天正元年(1573年)二月
月山富田城
波多野から使者が来ている。
使者は丹波の青鬼の籾井教業だった。
「お初にお目にかかります。波多野家重臣
籾井教業と申します。此度お目通り叶い感謝致します」
「丹波の青鬼が来るとは...丹波の守りは赤鬼だけでいいのか?それと、重要なことがあるのか?」
籾井教業は自分のことを知っていたのに驚いた。
「義久様に知っていただいていたとは...此度は主からの書状をお持ちしました」
そう言って教業は書状を渡してきた。
俺はそれを読むと頭を抱えた。
「お主は内容を知っておるのか?」
「はい。将軍に関わることですので私が参りました」
俺は考えても仕方ないと思い
「書状の件は分かったが、重臣と話したいので返事は待ってもらいたい」
「分かりました。よろしくお願い致します」
こうして俺は重臣を集めることにした。
一週間後
最前線の具教を除く全員が集まった。
書状を見せると皆頭を抱えた。
「嫌な時に来ましたな..」
久兼は溜め息をして行った。
「全く、先月幕府からの使者を追い出した所にこれですか...」
常光は内心憤慨していた。
先月何があったかと言うと、幕府から使者が来て上から目線で、命令として書状を読み、俺達のことを幕府の駒だの命令は絶対や俺に対して頭を下げろなど傲慢な態度だったので、俺と常光の堪忍袋の緒が切れて刀を抜き危うく殺しかけたからだ。
「もう、盗賊の仕業に見せかけて殺そうか...」
俺は前のことを思い出して殺した方が絶対いいと思った。
「私は賛成です。最早、生かす価値すらない」
あの時キレた常光も賛成してくれた。
「し、しかし相手は将軍ですよ!もし知られたらいかがします!」
重盛は二人が本当に殺りそうなので慌てた。
「重盛、盗賊が殺すのだ。儂らには関係ない」
常光が笑顔で答える。
これには俺以外はゾッとした。
「問題はどこで殺すかだ」
もう、殺す方向で話を進めた。
「殿、ここは浦上の領地で始末してはどうでしょう?」
浦上は裏切って織田についたと、毛利家から連絡が来ていた。俺はそれ以前に知っていた。浦上の裏切りは俺の配下の一人が裏で糸を引いていたと忍衆から知らせが来ていたからだ。
「浦上の領地か。あそこには盗賊はいるだろうから出来るか。うちだと盗賊はほとんど居ないしな」
なぜ居ないかと言うと、忍衆が見つけ次第始末しているのと、幸盛が私兵として軍に組み込んでいるからだ。一時期なぜか
「盗賊は見つかれば一族全員惨殺される、助かりたければ山中幸盛と言う男の兵士になれば命は助かる。ただし、敵前逃亡は残った者が殺される」
という恐ろしい噂が流れた。
忍衆に盗賊は見つければ見せしめの為に惨殺を許していたから前半はなんとなく分かる。幸盛のところに行けば助かると言う噂が流れた理由は、当時分からなかった。
後に、本人が教えてくれた。
今まで幸盛の私兵が増えていたのは次男三男の他に見つけた盗賊を懲らしめて改心した者を私兵としていった為どこかで
「幸盛の元で懺悔して改心すれば兵士となることと引き換えに助かる」
と盗賊達の間に広がり一斉に幸盛の元に集まったらしい。
その為、幸盛の私兵五千人の中に元盗賊は多い。
しかしそのお陰で領内での盗賊はほとんどいない。
「では、どうやって浦上領に届けさせるかだな」
「それについては我らにお任せ下さい」
「はぁ、正永降りてこい」
そう言うと天井にいた正永は出てきた。
「それで、説明してみろ」
俺は正永に説明させた。
忍衆が浦上の家臣を名乗り迎えに行き、浦上の領地に入ったところで始末し、盗賊が殺した風に見せかけるというものだった。
「問題は波多野にどう説明するかだな」
そこに、皆考えが出て来なかった。
「もう、波多野を巻き込んでしまったらどうでしょうか?」
中井久家が言うが
「しかし、波多野は納得しますかね?」
牛尾久信が疑問を言う。
「では、波多野に決めさせるか」
「殿?」
「波多野への返事に将軍暗殺に手を貸して尼子に従属して安息を得るか、一色へ将軍を送る代わりに尼子は一切波多野に協力しないかのどちらかを選ばせる」
「それだと断られた後、殺そうとしたことを広げられたらいかがします?」
久綱は問題点を言う。
「では、暗殺は難しいな...」
「殿、当初の予定通り大友へ送られたらどうでしょうか?」
久兼は最初に考えていた案に戻ってはと言った。
「大友に送り邪魔になれば暗殺か...」
俺はもし大友に送った後、大友が将軍を担いで上洛しようと考えないか心配だった。
「正永、大友に送られた義昭を始末することは出来るか?」
「難しいでしょうが命とあれば忍衆全員使ってでも始末します」
「いや、いい」
俺は正永達なら本当にやりかねないと思った。
「波多野には大友に送れと伝えよう。始末するかどうかは大友の動き次第だ」
「ははぁ」
こうして波多野へは返答の使者を送るのであった。