領地の配分 新たな家臣
七老中と相談役の久兼が集まり、但馬の今後の統治について話をしている。
「俺としては具教に、但馬を任せればいいと思ってる。今まで伊勢を治めていたしな」
「しかし、一人では万が一の場合もあります」
盛重は先の反乱のように裏切りがあるかもしれないと内心思っていた。
「今のように二人か三人入れられたらどうでしょうか?」
中井久家は前回のような統治をすればいいと言ってきた。
「但馬は重要な地、それ故に七老中を二人も置いたのだ。まさかこの様なことになるとは思わなかったが...」
久兼は自身の案を利用されたことを悔やんでいた。
「守りに関しては常光、お前ほど上手な者はいないと思うがどう思う」
俺がそう言うと皆が常光を見た。
「恐れながら改築が間に合えば余裕で守れるとは思いますが、そうでないなら少し防戦は厳しいかと」
「山吹や鳥取、岡山などのように改築する時間は余りないしな...」
先にあげた城は五年もの歳月と金を掛けて作り上げた堅城である。
「俺は大筒を完全配備するつもりだ」
その言葉に皆驚いた。
「殿、量産が出来たのですか?」
久綱は最近傅役で忙しく知らなかったようだ。
「ああ、船に乗せる分は既に確保した。鍛治衆の皆が頑張ってくれたからな」
鍛治衆とは鍛治師達が集まり尼子家の武器の製造、開発のほとんどを行っている。人数も千人を越えている。これも流民の中で鍛治などが出来る者や手先の器用な者を集め職人達に弟子として預けたからである。既に雷管式ではないミニエー銃に似た武器などが開発されている。
「では、竹田城、八木城を堀と兵糧庫、大筒がおけるように改築しましょう。それなら時間はかからないでしょう」
常光は籠城で一年半は耐えられるようにしようとしていた。
「それで、誰がいいと思う?」
俺が聞くと皆黙った。
「殿の言う通り、具教殿と後一人ですな」
「七老中の中で領地がそんなにないのは今回の件で領地が減った牛尾久信と久兼の領地しかない宇山久信か...」
ちなみに、領地は
本城常光は石見(石央、石西)と出雲の一部
立原久綱 伯耆と出雲の一部づつ
多胡重盛 美作半国
中井久家 因幡と伯耆の一部づつ
宇山久信 備後と備中の一部づつ(父親の領地)
牛尾久信 出雲一部づつ(以前は但馬一部付き)
北畠具教 知行地は出雲内
「具教に但馬一国は多いか?」
「流石に他の者からの批判が多いかと」
具教に言われてしまった。
「では、具教を但馬の三分の二にして残りを宇山久信としてはどうか?」
皆考えるが常光が
「先の戦の功績からして反対は少ないと思います」
「では、但馬はそうするとしよう。美作半国はどうする?」
美作は多胡重盛と赤穴盛清が統治していた。
「今回の功績として、秋上久家と山中幸盛に任せてみてはどうでしょうか?」
久綱は、提案する。
「そうすると、俺の兵を指揮する者がほとんど居なくなるんだが...」
俺の軍隊は
秋上久家、山中幸盛、北畠具教、三村元親、遠藤秀隆、俊通兄弟、が主に動かしている。
遠藤俊通は鉄砲隊を、兄秀隆は新設した大筒隊
を任せている。三村元親は久家の下につけている。
これで三人も抜けられたら大変なことになる。
「また、引き抜きや勧誘をされますか?」
久綱は遠藤兄弟や具教のように集めたらと言う。
「一人送ってるのだが未だに帰ってこないんだよ」
島左近のところに送った者が未だに帰ってこない。時期的に具教と同じ頃だから二年は経っている。
「でしたら、わが息子をお貸ししましょうか?」
常光が提案してきた。
「隆光は既に城を任せてなかったか?」
常光の嫡子の隆光は石見国内の城を任されていたはず...。
「隆光は城を任せてますので、次男、春政にございます」
常光は弟の方を預けようと考えていた。
「それと、内政向きなら一人推挙したいのですが...」
珍しく常光はもう一人言ってきた。
「誰だそれは?」
「小笠原長雄の長子、小笠原長旌にございます」
小笠原長雄...忘れることはない。私達の援軍が間に合わなかった為に降伏し、降露坂の戦いで殿を勤めさせられて死んだ不運な武将だ。
その後小笠原家は、毛利との交渉で石見が尼子のものになったので再度尼子側に戻り本城の部下となっていた。
「たしか病弱だったような...」
と俺が呟くと
「はい。武勇と内政どちらも優れていますが病弱な為、内政を主に任せておりました」
俺は考えたが仕方ないと思い受けることにした。
「わかった。二人を貸してもらおう」
こうして、秋上久家と山中幸盛には美作を任すことになった。
これにより俺の軍にも変化があり、具教は斬り込み隊改め鬼神隊を引き連れて但馬の竹田城に向かい、秋上久家にもついていきたいと懇願した五千人の常備兵が久家についていった。幸盛は私兵五千人を連れて向かったようだ。
元亀四年(1573年)一月
月山富田城
俺の前に二人の男が座っている。
島清興と藤堂高虎だ。
「お初にお目にかかります。島清興と申します。二年前にお誘いして頂いたにも関わらず今になってしまい申し訳ありません」
清興こと左近はこの二年のこと話してくれた。
筒井家を同僚との問題で出奔してしまったが、すぐに他の大名に仕官してしまっては、不義と言われかねんゆえ、遅くなったと言った。
「筒井家への忠義見事だな。気が済んだのか?」
と聞いたら
「ははぁ、これからは尼子義久様に忠誠を誓いまする」
と言い頭を下げた。
「さて、その方はどうしてわざわざ近江からここまで来たのだ?」
俺は藤堂高虎に聞いた。
「はっ、ただ仕えてみたいと思う者が居なかっただけにございます」
俺はその答えに笑ってしまった。
「ハハハ、仕えてみたい者が居らんからとは。織田家に朝倉、大和には松永など多くいると言うのに仕えてみたいと思える者がいないとは、お主が仕えてみたいと思う者とはどの様な者なのだ」
「理想があります。しかし、共に見れる者がおりません」
「なら、尼子には試しに仕官しに来た訳か」
「はい!」
堂々と言いやがった。
俺は幸盛や久家がいたら斬りかかっていたなと思った。今そばにいるのは、常光の次男春政と小笠原長旌だ。
「分かった。高虎、お主には常備兵一万の指揮を任せる。やってみせよ」
いきなり一万も任されるとは想像もしておらず驚いていた。
「謹んでお受け致します」
「左近、お主は常備兵一万の指揮と俺の指揮する兵五千人の訓練を任す」
「ははぁ!」
残りの一万人は既に春政と三村元親に任せている。
と言っても、三村に任せた五千は集めたばっかでまだ使い物にならないけどな。久家の、訓練を受けていたので訓練からやらせている。
こうして手持ちの兵の指揮官は決まった。
常備兵三万五千
尼子義久 常備兵 五千人 鬼兵隊五千 計一万
島左近 一万
藤堂高虎 一万
三村元親 五千
本城春政 五千
これにより、俺の軍は指揮官の影響を大きく受けた。
左近に任せた軍は更に訓練が厳しくなったらしく、鬼兵隊とあまり変わらない位強くなったらしい。鬼兵隊の訓練を見て、色々な訓練をしたようだ。
高虎に任せた軍は集団戦に特化し、鉄砲隊の俊通と気が合ったらしくよく鉄砲隊と合同で訓練していた。
元親は久家から学んだことを実践し、確実に兵の育成をこなしていった。
春政は今まで、こんな多くの兵を指揮、訓練したことがなかったようなので美作の幸盛の所に学びに行ってから訓練を始めたようだった。学びに行ってる間は長旌が代わりに訓練をしていたようだ。