尼子動乱
元亀三年(1572年)八月末
月山富田城
「現状敵味方は分かっているのか!」
俺は怒鳴り確認している。
「確実に敵対しているのは、亀井誠秀(尼子勝久)、牛尾幸清、佐世清宗、赤穴盛清です。中立を宣言したのは本城常光殿、多故重盛殿などです」
久経は説明していく。
「牛尾城の牛尾久信は謹慎すると言って城門を閉めております。ただし、兵士は集めておりません」
正永が牛尾城の様子を説明した。
「赤穴城、佐世城の様子は?」
「赤穴盛清は城を捨てて合流しに向かったようです」
「佐世城も同様です」
正保と兵太夫が報告する。
「久経、久綱と共に盛清を連れてこい。最悪生きておれば問題ない」
「ははぁ!すぐに向かいます」
「正保、幸盛に常備兵五千と幸盛の私兵五千を率いて倫久の元へ向かうよう指示しろ。因幡を狙ってくるぞ。お主はそのまま倫久の護衛に付け」
「ははぁ!」
「正永、足が一番早い者をすぐに越中に行かせ、久家達を呼び戻し、因幡へ向かえと伝えよ」
「はっ!」
「兵太夫、お主は忍衆を率いて但馬に向かい、情報を集めよ。他国が干渉してないかも調べよ」
「ははぁ!」
「弥之三郎、お主は鉢屋衆と忍衆の一部を率いて領内の情報を集めよ、謀反の兆しが有ればすぐに報告しろ」
「ははぁ!」
「誰か久兼の元に行き、佐世城を押さえるように伝えよ」
そう言うと忍が一人向かった。
「我らも全軍を率いて因幡へ向かい、集まり次第但馬を攻める。急げ!」
俺は小姓に指示をした。
元亀三年(1572年)九月
因幡に全軍五万七千人が集まった。
内訳は
尼子義久 二万五千(鉄砲隊、鬼兵隊五千含む)
尼子倫久 一万
宇山久兼、久信 一万二千
立原久綱 一万
鉢屋久経 五千人
山中幸盛 五千
計六万七千
赤穴盛清は逃してしまったそうだ。
秀久はもし、他に謀反が出た場合に備えて残してある。
そんな中、反乱軍に織田から援軍が入ったと忍から知らせが来た。
「織田の援軍は大将柴田勝家、他にも細川藤孝、滝川一益その数約二万五千にございます」
報告の中、織田から使者が書状を持って来た。
「彼らは我が従属勢力故手出し無用。手を出せば織田が相手になろう」
この事に俺は頭に来ていた。
「持ってきた者、連れてこい」
そうして書状を持ってきた者が現れた。
「戻って伝えろ。此度は尼子家の問題。手を出せば只では済まさん」
そう言って使者を帰らせた。
数は相手の方が上回っている。しかし、鉄砲の数はこちらのが有利である。
元亀三年(1572年)十一月
互いに睨み合いが続いていたが、小競り合いが多くなった。
忍衆を使い無理のない程度の暗殺をさせていた。しかし、大物は護衛を多くしており暗殺は出来なかった。他にも兵糧を焼くなど行っていた。
そして、秀久から領内が不安定になっていることが伝えられた。
領外の情報も入ってきた。
浅井は朝倉に見捨てられ滅んだそうだ。嫡男は殺され、市と三人の娘は監視されているらしい。信長は兵を分けて明智光秀を朝倉攻めに、羽柴秀吉、丹羽長秀を徳川の援軍に出し、信長自身は京で決起した足利義昭を囲んでいるそうだ。これにより、将軍寄りの丹波、丹後が不安定になっている。
「これ以上対陣は無意味か」
「しかし、攻めるにしてもこちらの方が不利にございます」
「久兼、此度の件はやはり毛利の件が問題だったかのう?」
俺は謀反や中立している者の名前を聞いてそう思った。長く尼子家に仕えてくれている者が多かったからだ。
特に常光は反乱に理解ができると言っていた。常光が反乱に加わり、挟撃される恐れがあったが常光は中立を選んでくれた。
「恐らく、そうでございましょう。毛利との同盟はほとんどの者が反対しておりました。それに、あの状況では我らが有利でした。それを殿は一人で決められ結ばれた。亡き秀綱殿、久包殿は止めることができなかったことを後悔されておりました」
久兼はそう説明する。
「そうか、俺は失敗ばかりだな。考えてやって来たつもりだったんだけどな..」
だけど、過去はもう変えられない。変えられるのはこれからだ。
「久兼、今回の件どうしたらいいと思う?」
「殿はどのようなお考えなのですか?」
久兼は俺の考えを聞いてきたので
「俺は今回の件を許すことができない。誠秀、幸清、清宗、盛清全員を討ち取るつもりだ。特に誠秀は尼子勝久を名乗り尼子家を乗っ取ろうとした。それは絶対に許すことが出来ない」
「でしたら、誠秀殿を切腹、後の三人はこれまでの功績から考え追放でよろしいのではないですか?」
「それでは担ぎ上げられた誠秀が不憫ではないか?」
俺は上手く担ぎ上げられただけだと思っていた。 久兼は首をふり、
「それでも、旗印として立った以上、仕方がないです」
そう言われそうなのかと思い覚悟した。
「久兼、今後は織田と争うことになる。多くの者が死ぬであろう。それでも私は泰平の世を目指したい」
これが終わったら全ての家臣を集めて話さなければな...。
「ははぁ」
久兼は頭を下げるだけだった。正永が現れた。
「殿、部下が戻りました」
伝令が報告してくれた。
「よし全員を集めろ、軍義を始める」
全員を集めて軍義を開いた。
集まったのは
相談役 宇山久兼
七老中 立原久綱、宇山久信
若年寄 鉢屋久経
家臣 遠藤俊通、山中幸盛
忍衆 望月兵太夫、藤林正保、百地正永
「此度の反乱は私のせいである。皆済まない」
俺は集まった者にまず謝った。
これからについてこの戦が終わった後話そうと思っている。
「まず、我は六万七千、敵は約七万にも及ぶ。正永、久家達はいつたどり着く?」
「はっ!既に因幡には着いていますので早くて夕刻、遅くても明日の早朝には合流すると思われます」
久家達は急いで向かってくれていた。
「決戦は明後日とする。今は防備を固め敵に備えてくれ」
「ははぁ」
久家が合流したらこちらが上回り勝てると確信した。
しかし、相手は待ってはくれなかった。