上杉不識庵謙信と同盟
元亀三年(1572年)四月
紀州での惨劇を知り、石山本願寺がついに挙兵し、浅井、朝倉も同時に挙兵した。
信長は紀州を滅ぼした軍三万で石山本願寺を攻めさせた。それと同時期に、比叡山を焼き討ちした。
これにより、信長の悪名が全国に轟いた。
比叡山焼き討ちで逃れた者もいた。
天台座主の覚恕法親王(正親町天皇の弟宮)だ。
覚恕法親王は甲斐に亡命し仏法の再興を信玄に懇願した。信玄は覚恕を保護し、覚恕の計らいにより権僧正という高位の僧位を貰った。
さらに信玄は信長を「天魔ノ変化」と非難した。
信玄は兵糧等を徐々に集め出陣に備え始めた。
その頃出雲では、厳戒体制がしかれていた。
越後から船で上杉謙信が来たのである。
俺は常備兵全軍に鉄砲隊、鬼兵隊を揃えていた。
上杉側は凄い顔ぶれで来ていた。
上杉四天王の柿崎景家、直江景綱、甘粕景持に
本庄繁長だ。
兵士は三千名だったが、強兵だと考えて万全を期した。
月山富田城内
俺は今軍神と対峙している。
俺の方は、宇山久兼、牛尾幸清、本城常光、秋上久家、山中幸盛、鉢屋久経だ。
後、隠れているが周囲を忍衆の三人と弥之三郎が守っている。
静寂が続いている。
この静寂を破ったのは謙信だった。
「忍が邪魔だな。下がらせろ」
謙信は隠れているのに気が付いていた。
他の者で気付いているのは景持と景綱だけのようだ。
「皆出てこい」
俺がそう言うと四人とも出てきた。
「なぜ分かったのですか?」
俺が聞いたら
「うちにも似たのがいたからな。それに監視してるのが分かりすぎだ」
四人とも悔しい顔をしていた。この四人は気配を消すのが得意な者だからだ。ちなみに一番気配を消すのが上手いのは百地正高だ。
「似てたと言うのは鳶加藤ですかな?あれ程の者を逃すとは勿体無い」
謙信の後ろの五人は知っているのに驚いていた。
「耳が広いな。越後にまで間者を入れておるか。」
謙信は表情を変えずに言ってくる。
「どこぞの耳長坊主以上だと自負しております」
そういうと一瞬だが顔が動いた。
耳長坊主とは信玄のことだ。千代女がいないのにきちんと歩き巫女を作っていた。しかし、忍の方は真田に頼っているようだ。
「では、将軍が暗殺されることを知っていたか」
「ええ、知っていました。」
そう言うとその場にいた全員が驚いた。傅役になるまでずっと側にいた久経もだ。
そして、謙信の威圧が変わった。
「なぜ、知っていながら見殺した」
物凄い威圧をしてきた。
これには皆、押し潰されそうになっていた。
「必要ないからです。それに、我らが助ける意味がないからです」
「..なんだと?」
「我らは幕府とは手を切っていた。教える気もなかったし、死んだ方が都合が良かった。まぁ、自業自得だろうがな」
俺は裏の顔になっていた。
「キサマ...」
謙信は脇差しに手をかけようとしていた。
しかし、誰も威圧されてるせいで動けなかった。
「謙信殿、現状を見て分からないか?」
俺が言うと不思議に思っていた。
「ナニをだ?」
「義輝が死んでどうなった。天下が動いたではないか」
謙信は考え始めた。
「天下が動けば乱世を終わらせられる」
「キサマが天下を取るつもりか?」
「あぁ、天下を取り新たな国作りをし戦無き世にする」
謙信は威圧するのを辞めた。
「それで、天下を取った後、南蛮を攻めるのか」
「取ったらそこまでだ。南蛮に侵略されない国作りをする」
「帝はどうするつもりだ?将軍と同じように殺すのか?」
「いや、帝は象徴となっていただく。全ては御前の前で政治を決める」
「貴族の世にする気か」
謙信は貴族の手に委ねるならこの場で切り殺そうと思ったが
「馬鹿を言え、貴族に好き勝手させたらそれこそ終わりだ。政は武士が中心に行う」
謙信はそこまで馬鹿ではないことに一安心した。
「それで、近衛殿が言う協力とは織田を潰すことか」
俺は頷き、
「織田を倒した後は全ての国を統べるつもりだ。それに協力してもらいたい」
「統一後は越後を、上杉家をどうするつもりだ?」
「そりゃ、そのままにするつもりだが。ただ、内政には口出しはするかもしれんがな。民に貧しい思いはさせたくないし」
「越後を豊かに出来ると?」
謙信はもし本当に出来るなら協力してもいいと思った。
「ええ、報告でしか国の状態は分からないが出来る。特に越後平野を開拓したら穀倉地帯になると思っている」
それを聞いた越後の者は皆驚いた。
「そんな事など出来るのか!!」
繁長は大声で言う。
「ならやってみて貰おうか。」
「殿?」
景綱は謙信に聞く。
「キサマと同盟を結ぶ。越後平野を開拓して見せろ」
「同盟内容はどうしますか?」
「軍事同盟と越後平野を貸す。キサマの言った開拓をやってみせよ」
それに驚いたのは景綱だった。
「殿!同盟になったとしても国内に入れて内政を任せるとは何をお考えですか!!」
「景綱、こいつは豊かに出来ると申した。だからやらすのだ」
「しかしですな~」
景綱は必死に止めようとしていた。
「では、兵士を越後に入れることを認めてもらいたい。数は二万」
これにはどちらの重臣も驚いた!
「貴様!越後を攻めるつもりか!」
景家は怒鳴り、
「二万など言語道断、殿、同盟などお止めください!」
景持も言う。
「静まれ!」
謙信の一言で黙り込む。
「何の為に兵士を越後に入れるのか?」
「越後で作業させる黒鍬部隊の為に越中を完全に黙らせた上で能登を落とす為だが何か問題か?」
これには謙信も驚いた。
「能登を落とすだと。そんな事ができるのか?」
謙信は信玄のせいで越中には苦しめられていた。
「ああ、能登を制圧した後は謙信殿に任せるよ。飛び地など勘弁だからな」
「殿、我らには何の利も無いですぞ」
「そうです殿、今は少しでも兵士を温存しておかねば織田に遅れを取り兼ねませんぞ」
幸清と常光は反対だった。
「しかし、越中を完全に制圧し能登を取れば謙信殿は動けますよね?」
と俺は謙信に言うと
「勿論だ。その時は織田を攻めよう」
「では、同盟成立ですな」
そんな中、忍の一人が入ってきて兵太夫に何かを伝えたようだった。
「何があった?」
「殿、秘匿兵器蔵に侵入者が入りました」
「監視は何をしておった。始末したのか?」
俺が言うと難しい顔をして
「それが...上杉家の者らしいのです」
それを聞いた景綱は
「上杉の者が入っただと、そんな馬鹿な」
そう言ったので、ここに連れてこさせることにした。
縄で縛って連れてこられたのは二人。
二人ともまだ若かった。
二人を見た上杉側の反応は凄かった。
「お主らどうやってここまで来た!」
景綱は驚き、
「景勝様、なぜここに!」
繁長は名前を言った。
「兼続、お主が連れてきたのか!」
景家は怒っていた。
「...景勝に兼続..」
俺は一瞬止まってしまった。
「謙信殿、二人を連れてきたのですか?」
俺が聞くと
「私達が勝手に付いてきました!景勝様を誘って連れてきたのも私です!」
兼続が大声で言った。
「この、大馬鹿者が!!」
景綱は激怒していた。
「景勝...なぜ付いてきた?」
謙信が問うと
「越後の兵と互角と聞く尼子の兵を見たかった為です...」
向こうではそんなことを言われているのか..。
俺はそんなことを思いながら聞いていた。
「なぜ、隠れて付いてこようとした。なぜ、付いてきたいと申さなかった」
「.....」
景勝は黙っている。
「恐れながら、私が景勝様に伝え、共に見に行こうと申しました。隠れて乗ることも提案したのも私です」
兼続はそう言うが景勝を守ろうとしているようにしか見えなかった。
「お前ら縄を解いてやれ」
俺は連れてきた忍衆に指示をし縄を解かせた。
そうすると二人共に伏して頭を下げていた。
「そんなに見たいなら見せてやる。」
俺は鬼兵隊の訓練を見せることにした。
「殿、よろしいので?」
久経は手の内を曝すことになるのではと心配した。
「問題ない。見せるのは鬼兵隊の訓練だけだ。今具教が訓練しているだろうからな。謙信殿も如何かな?」
「そこまで言うなら見せてもらおう」
と共に訓練場に向かうのであった。
驚かそうと見せることにしたが、この後軍神の力を目の当たりにするとは思わなかった。